イランが敵対してきた周辺国との“和解”に舵を切った裏事情

 

一つは、メディアで報じられるように「バイデン政権の人権重視の姿勢を強調したかった」という理由が挙げられます。これはアメリカ政府、特に民主党内の人権擁護グループが、トランプ政権及び共和党との差異化を明確に行うために、バイデン大統領に迫った際、バイデン大統領自身が強く持つ対エルドアン嫌悪感と相まったことで、ジェノサイド認定という正面からの非難と挑戦が行われたという点です。

これは確かに説得力がありますが、私は別の理由があるとみています。それは「トルコ、エルドアン大統領への最後通告」です。トランプ政権時から、まさにアメリカ、特にオバマ政権への当てつけのように、ロシアに接近し、S400ミサイルの配備を強行したことで、アメリカのNATOにおける重要な同盟国で、かつアメリカの核が配備されているトルコへの信頼が大きく揺らぎました。

バイデン大統領にとっては、原理原則を重んじるタイプですので、これは許すことが出来ない事態であり、エルドアン大統領による趣味の悪いゲームに映ったようです。以降、バイデン大統領は再三、エルドアン大統領を非難し、何度も独裁者と呼んで毛嫌いしている様子が見えます。

個人的な嫌悪感ももちろん存在しますが、今回のアルバニア人ジェノサイドの案件を持ち出した背景には、そんなトルコへの踏み絵の意味合いがあると考えます。

ロシアとの接近、中国との接近、ナゴルノカラバフへのあからさまな介入、イランとの共同歩調、シリア紛争でのアメリカとの対峙、サウジアラビア王国への脅し(カショギ氏殺害への皇太子の関与の証拠?!)といった問題に加え、バイデン政権が回復しようとしている欧州との同盟関係との兼ね合いで、EUとことごとく対峙するトルコという問題も重なり、態度を改めないと、それなりの代償を払わせるという脅しにも見えます。

言い換えると「NATOの同盟国として、それなりの行いをし、これまでの“過ち”を正して、こちら陣営に残る」か、それとも「中ロ・イランと組んでRed Team入りして、欧米と対立するのかを決めろ!」というメッセージです。

エルドアン大統領は、バイデン大統領からジェノサイドの誹りを受け、非常に激怒し、反発していますが、同時に、得意の多方面同時にらみ外交を使って、ロシア・中国に急接近し、関係強化へ傾倒するそぶりを見せています。またあからさまに、イランの窮状にシンパシーを示し、イランへのサポートを行っています。何度かお話ししている通り、見事にトルコは、中東情勢でも混乱要因としてしっかりと君臨しているといえます。

しかし、皆さん、もしこのトルコの動きでさえ、イラン政府が画策する地政学的なゲームのオーケストレーションだとしたらどうお考えになるでしょうか?今週のイランの活発な外交運動に際し、いろいろな情報源と議論した結果、私にはそんな見事にデザインされたイランとその仲間たちの戦略が見えてくるような気がするのですが…。皆さんはどのようにお考えになりますか?

image by:vanchai tan / Shutterstock.com

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