読売の記事は、
「事態がさらに悪化した場合、限定的な集団的自衛権に基づいて武力行使による反撃ができる『存立危機事態』に該当する可能性もある。これも安保関連法で可能になった」
としていますが、台湾有事などの戦争状態にはそんな段階は存在しないのです。いきなり「武力攻撃事態」なのです。旧ソ連軍の北海道北部への本格的な軍事侵攻のレベルなら、その準備に6カ月ほどを要し、事前に兆候を察知できましたが、そんな時代ではないのです。
こんな現実を無視した「重要影響事態」「存立危機事態」が安保関連法として国会を通過したのは、これを書いた官僚も、審議した国会議員も、専門的に評価する立場の学者も、そして報道するマスコミも、軍事の現実についてまったく無知だからにほかなりません。
戦争が始まっているのをよそに、「これは『重要影響事態』だろうか、いや『存立危機事態』に該当するとした方が正しい」と議論する国会議員の姿など、想像したくもありません。
ここでは、わかりやすいように台湾への航空攻撃を例に挙げましたが、現実には可能性は高くありません。福建省に1500基以上が展開する短距離弾道ミサイルによる台湾の重要目標に対する斬首戦も同様です。むしろ、台湾で騒擾事態を引き起こして、その混乱に乗じて親中派による傀儡政権を樹立する方が、リアリティがあります。
先進国の中で、日本のコロナ対策だけが後手に回っている根底には、国家国民の危機についても絵空事の言葉の遊びで済ましてしまうような思考回路の存在があります。もっとリアリズムを重視した考え方に変えていかないと、日本は衰退を免れないでしょう。(小川和久)
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