もうひとりの達人は、日本を代表する彫刻家のおひとりで、日本芸術院会員でもある山田朝彦さんです。
山田さんは、芸術系の大学出身ではなく、明治大学柔道部出身という珍しい経歴の持ち主です。
大学卒業後、家業を継ぐためのエサ?として父にプレゼントされたヨーロッパ旅行がすべての始まり。ツアーでご一緒だった見知らぬ老夫婦に誘われて、しぶしぶ行ったイタリアの美術館。そこで天才彫刻家ベルニーニの彫刻を見て、人生最大の衝撃が走ったそうです。感動のあまり、その後、食事ができなかったとか。
しかしながら、その後、しばし彫刻のことは忘れてしまったそうです。家業はアート関係だったこともあり、20代半ばから、仕事の後でデッサン教室に通います。3年の修行を経て、ある芸術の研究所を訪ねたところ、そこで偶然に彫刻を学ぶ教室を見つけます。その時、何気なく触った粘土の感触に、また衝撃を受けるのです。
そこで、急遽、彫刻の教室に通うことを決意。家業が終わった夜の7~8時に教室に駆け込み、そこから1~2時間みっちり粘土と向き合います。
人生を変えるような衝撃は、ある日、突然、思いがけない形で訪れます。それが運命をまったく別の方向に導くきっかけになるのですね。
修行時代は、柔道部時代にしごかれて培われた気力・集中力が役立ったそうです。明らかに他の生徒たちよりも集中して、真剣に取り組むこと13年。ついに本格的な彫刻家の道を歩むことになります。もちろん家業にいそしみ、途中からは経営者となっての二足のわらじです。
ですから、若い頃に誰かに嫌々させられたトレーニングも、自ら成長する道を歩むときには無駄にならないのかもしれませんね。
何度もスランプに見舞われながらも、突然訪れるひらめきに救われながら、少しずつ前に進む繰り返し。
そして3.11の東日本大震災。
ボランティアで目にした光景に衝撃を受け、そこから彫刻に深い祈りを込めるようになりました。自分の気持ちではなく、その場にいた誰かの気もちになって作品制作をするようになったそうです。
その「詩魂」が認められて、ようやく70代になって日本最高峰の賞を受賞されるまでになったのです。
たとえ専門外でも、20代半ばからの挑戦でも、忙しい仕事の合間でも、自ら短時間に全集中!して努力を10年20年と続ければ成長できる。自分のためだけでなく誰かのために仕事を究めようとすれば、真の成長路線に乗ることができる。
学生はもちろん、私にも大きな勇気をいただけるお話でした。
そこまで道を究めているのに、まだ作品を作りたくなるというのがすごい。今でも、粘土に触れている時間が一番幸せだそうです。むしろ若い頃よりも1日3時間の製作で疲れなくなったというのも驚きです。
それでいて、やっと数か月かけて作品が完成する間際にやり直したくなり、展覧会初日には自分の作品も見たくなくなってしまうという繰り返し。
50年続けていても、まだ先に道があり、成長したくなる。
そんな厳しくも楽しい「道を歩む人生」に、私も憧れるのです。
ということで、入社5年目ということは、ちょうど上野さん、山田さんが、まだ天職とは認識していなかった何かに出会い、成長を始めたころ。自ら成長を始めるスタートラインにふさわしい時に、ご質問いただけて良かったです。
お互い、死ぬまで楽しく成長道楽を続けてまいりましょう。
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