飲食業者への配慮は皆無。ワクチン「職域接種」で崩壊した公平性

 

怪しくなり始めたのは職域接種からである。そもそも会社で接種場所を確保でき、かつ常駐の産業医が複数人いるとなれば、それは間違いなく大企業である。大企業は弱者ではない。1年来のコロナ禍で一番打ちのめされたのは誰の目から見ても飲食業者である。飲食業の場合、そのほとんどが中小零細企業か個人事業である。この人たちに計算がなぜ及ばないのか。

たとえばである。最も辛酸をなめることとなった飲食業従事者に優先接種権を与え、そのワクチン接種証明書を店の内外に明示することで営業許可とし、客もワクチン接種証明書を店側に提示することで初めて客たりえるというようにすれば、ほぼ(さすがに完全にとまでは言えないが)コロナ前と同じように営業ができる。これはコロナ禍における種々の禁止(自粛)政策により生じた社会的弱者への救済策である。せめてもの公平化策である。

ただこの国には絶望しても、この国の人にはまだ希望がある。先の10万円定額給付の際にそれを受け取ることを辞退した人が全国で40万人もいたのである。平等であることを自ら放棄し、公平であることを望んだ人たちが実に40万人もいたのである。これを今、義理人情の話にするつもりはない。先にも言った通り「公平」は数学である。あの局面で理知的に計算できた人がそれだけの数日本にいたという事実が少しばかり誇らしいのである。

それに引き換えこの1年間、政府は何の計算もして来なかった。官僚自らがちょっと掠め取ってやろうと思いつくほどに適当な制度を拵えるのみであった。1年もあったのに、である。しかもただの一年ではない。コロナの1年である。この政府に次の1年を期待するのはいくら何でも能天気というものだろう。少なくても自分は御免である。

image by:Heng Lim / Shutterstock.com

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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