間違えがちな「ガバナンス」の捉え方。渋沢栄一が150年前に抱いた社員への思い

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渋沢栄一は生涯に約500の会社に関わり、同時に約600の社会公共事業にも尽力したといわれています。その中のひとつに、第一国立銀行(現在のみずほ銀行)がありますが、みずほ銀行は今年、大規模なATM障害を起こし、多くの人たちを困らせました。渋沢栄一が生きていたら、この問題をどう対応したでしょうか。

プロフィール:渋澤 健(しぶさわ・けん)
国際関係の財団法人から米国でMBAを得て金融業界へ転身。外資系金融機関で日本国債や為替オプションのディーリング、株式デリバティブのセールズ業務に携わり、米大手ヘッジファンドの日本代表を務める。2001年に独立。2007年にコモンズ(株)を設立し、2008年にコモンズ投信会長に着任。日本の資本主義の父・渋沢栄一5代目子孫。

企業の「最大の財産」である社員を度外視してはならない

謹啓 ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。

「失点を恐れ、積極的・自発的な行動をとらない傾向を促す企業風土」がある。6月中旬に発表された、みずほ銀行のATM障害問題を精査した報告書において第三者委員会が直言しました。「担当ごとに仕事の守備範囲を決め、外野の選手の間に珠が飛んだのに、どちらも捕球に行かず、『お見合い』している」ことや「人の領域にまで首を出して仕事はしない、という文化がある」という声も上がったようです。

みずほ銀行の前身は渋沢栄一が1873年(明治6年)に設立した日本初の銀行である第一国立銀行でした。「一滴一滴の滴が集まれば、大河になる」という表現を用い、日本の新しい時代を切り拓き、より良い社会を実現させるビジョンで築いた銀行です。

およそ150年の年月を経たその銀行の「風土」が、第三者委員会が指摘したような内容に陥っている現状を見て、士魂商才を訴えていた栄一は何を言うでしょうか。100年前に、栄一はこのように言っていました。「従来の事業を後生大事に保守し、あるいは過失失敗をおそれて逡巡するごとき弱い気力では到底国運のあとへひく。」

「横の連携、縦の連携のいずれも十分に機能せず、統括すべき司令塔が本来の役割を果たせていない」という第三者委員会の指摘は本件に留まったこととは言えないでしょう。また、銀行の特有な問題ではなく、東芝の「内向き企業問題」にも類似の状況が見えてきます。企業経営者と投資家の間の相違は企業価値向上につながる健全な側面もあり、今回の東芝の株主総会議案の否決はコーポレートガバナンスのプロセスが問題視されたという原因があると思います。

外部から代表取締役社長および取締役会議長を招き、独立社外取締役がほぼ全員を占めるなど東芝のガバナンス体制は外見上、整っていました。ただ、報道されている以上のことはわかりませんが、取締役会の議事録を読み返した場合に社外取締役がどのような発言(問い)を示したことが掲載されているのでしょうか。取締役会の議事録は、企業のガバナンスにおいて重要なKPI(重要業績評価指標)になります。

ガバナンスのプロセスは会議の外で交わされる対話にもあります。政府が不適切に対話に関与したという疑いが今回の東芝の問題でありますが、対話すること自体は重要です。対話というコミュニケ―ションが役員同士(社内・外、取締役・執行役)で自由闊達に行われているか、それとも「空気を読む」「忖度」「言わなくてもわかるだろう」などの曖昧なスタンスに陥りがちな組織風土になっていないでしょうか。議事録に掲載されることのないところにガバナンス体制の本質が潜んでいると思います。

ガバナンスに問題が生じると、結果的に最大の被害者は、その会社で真面目に働いている社員になります。

今回のみずほ銀行や東芝でも社員が自分たちの会社に誇りを持って仕事をできなれば、顧客にも投資家にも会社は価値の最大化を届けることができません。

ガバナンスということになると、法的な要素や経営者・投資家同士のプライドの衝突が目を引きますが、企業の「最大な財産」である社員を度外視してはならないでしょう。

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