「聞いてみるといい人だ、山中さんは。だけど当選するのは八郎でしょ。八郎が当選しなきゃしょうがないでしょ。八郎の母親からも毎日のように手紙が来るし、ミナトの連中もどうするんだと。横浜市は横浜の人が行方を決めましょう。私も91歳ですよ」
たまらず記者が「藤木さんは山中氏支持なのか、それとも小此木氏でもいいのか」と聞くと、こう答えた。
「小此木は考えをすぐ変えさせますから。カジノは横浜港以外なら、どこででもやっていい。国はやることに決めてるんだから」
どうやら、風向きが幾分、変わってきたらしい。菅、小此木両氏の対応に、藤木氏はまんざらでもなさそうなのである。
それにしても、与野党ともに土地の有力者の意向で右往左往する現実にはうんざりさせられる。
藤木氏をなだめることに成功したとしても、小此木氏が勝てるという保証はない。現職市長が出馬し、自民党市連が分裂して戦っているうえ、立憲民主党の推薦候補と、知名度のある元県知事二人が立ちはだかっているのだ。
このような状況になること自体、菅首相の弱体化を物語っているのではないか。菅首相に求心力が維持されているなら、小此木で決まりと見て、他の候補者は容易に近づけなかったにちがいない。だが、ここで小此木氏が勝てば、菅首相にまだ踏ん張る力が残っているとも見られよう。
自民党総裁の任期は9月30日まで。衆院の任期満了が10月21日である。菅首相と二階幹事長は9月5日にパラリンピックが閉幕した後、オリ・パラの熱気が冷めないうちにできるだけ早く衆院解散に持ち込み、総裁選より前に総選挙を終える算段だった。
むろん、総裁への無投票再選を狙ってのことだが、ここへきてメディア各社の世論調査で内閣支持率が過去最低を更新するなど、党内合意を得るための前提が崩れつつある。
菅政権が誕生して以降、自民党の選挙は苦戦続きだ。北海道、長野、広島で行われた4月25日の補欠、再選挙では1人として当選者を出せなかったし、千葉と静岡の二つの県知事選でも敗北、7月の東京都議選は過去2番目に少ない議席に終わった。
このうえ、お膝元の横浜で市長選を落とすようなら、「選挙の顔」不適格という党内世論が決定的になるだろう。
すでに党内からは、総裁選を催促する動きが出はじめている。高市早苗前総務相が8月10日発売の月刊誌『文芸春秋』で、総裁選に出馬する意向を明らかにした。高市氏が呼び水となって、総裁選をめぐる動きが活発化しそうな雲行きだ。
菅首相への支持を表明していた安倍前首相も、いつ豹変しないとも限らない。政治家・菅義偉にとって、これほど厳しい夏は、かつてなかったのではないか。
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image by: 首相官邸