アフガン撤退は狂気の沙汰。逃げ出したバイデン大統領と米国の迷走

 

トランプが達成したドーハ合意

アフガニスタン戦争の終結を模索したのはオバマ元大統領だが、具体的に取り組んだのはトランプ前大統領だった。米国務省とタリバンとの紆余曲折を経た折衝の末、2020年2月29日にカタールの首都ドーハで和平合意の署名が行われた。

内容は、米軍が4カ月余り後から順次撤退を開始し、21年5月までに完全撤収するのと引き換えに、タリバンはアフガンを国際テロの温床としないことを約束し、またガニ政府と交渉を通じて連立政権づくりに協力するというもの。ここでの肝心要は、タリバンとガニ政権との連立合意が成り立って暴力に依らない国内秩序のベースが形成できるかどうかだが、そもそもこの場にガニ政権が参加していないので同政権はこれを自分事と思っておらず、だからと言って米国がタリバンとガニの両者間を仲介して和平合意を育てるつもりがある訳でもなく、単にタリバンに対して「努力目標」として課したにすぎなかった。これでは、そもそもガニ政権を「米国の傀儡」としか見ていないタリバンが真面目に連立政権交渉に応じるはずがない。お話にならない甘い合意にすぎなかった。

結局、アフガン国内の状況は何も改善しないまま、トランプは昨秋の大統領選でレガシーとして宣伝するために、一方的に1万3,000人いた部隊の1万人余りを撤退させるという無責任なやり方をしただけに終わった。バイデンも全く同じレベルで、22年中間選挙向けに外交的成果として誇りたいために残り全部の兵力を8月末までに何が何でも撤退させると表明したのである。

トランプとバイデンに共通するのは、今日のこの問題が拠って来る歴史的経緯から、それが自分らの“決断”によって一体どんな結末に繋がっていくのかの近未来的な予測に至るまでの、前後の脈絡関係についての想像力の欠如、端的に言って視野狭窄である。米国が20年前に勝手に始めた戦争でアフガニスタンという歴史ある国の国体を粉々に破壊し、それを再建する目処も何も全く立てることが出来ないまま、勝手に出ていくというこの究極の無責任。それに対し、アフガン国民が余りのことに声も上げられないでいるのは仕方がないとして、どうして米国民が「民主主義とか言っている我が国が、こんな風に他国を国ごと爆破・粉砕するような国家ぐるみの暴力行為を働き、後始末もしないで放ったらかしにしようとしているのはいかがなものか!」と異議を突きつけないのか。理解不能である。

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