アフガン撤退は狂気の沙汰。逃げ出したバイデン大統領と米国の迷走

 

怒りに任せた軍事力の発動

この戦争は、最初から間違いだらけだった。私は9.11の後、最初の本誌01年9月17日号「『戦争』は泥沼化への道ではないのか」で、反戦論を次のように述べていた(拙著『滅びゆくアメリカ帝国』、にんげん出版、2006年刊、P.20~36)。

▼テロはあくまで「犯罪」の一種であり、いくら手口が残忍で犠牲者の数が多く、また米本土を舞台とした初めてのケースであったからと言っても、安易にこれへの対処を「戦争」と規定すべきではない。軍隊が出動して軍事的手段のみを用いてよい結果が得られる保証は何もない。

▼これが仮に「戦争」であったとしても、その戦争は今ではなく、とっくの昔に始まっていて、米国は一貫してその当事者だった。79年に旧ソ連がアフガニスタンに侵攻した際、米CIAはアフガン・ゲリラに豊富な武器と資金を提供してソ連軍に立ち向かわせた。その時期にサウジアラビアから来て全世界のイスラム国からの「アラブ義勇軍」によるゲリラ支援体制を組織したビンラーディンは、たちまちCIAの協力者となり、その後押しで88年、「アルカイーダ」という名のゲリラ戦士育成学校を創設し、校長となった。

▼ソ連軍撤退後、サウジに帰ったビンラーディンは、91年湾岸戦争で米軍が大挙サウジに進駐したことに反発、一転して反米テロ攻撃に携わるようになった。したがって9.11が本当にビンラーディンが主犯だったとして、米国にとっては「飼い犬に手を噛まれた」という類の間抜けな話でしかなかった。

▼そういう事情も一切飛び越えて、それでも軍事作戦に突き進むという場合、作戦目標は、単なる憂さ晴らし的な報復、ビンラーディンの拘束もしくは爆殺、タリバン政権の一体どれなのか……。

結局、当時のブッシュ子の米国は、作戦目標をきちんと定めることなく、タリバン政権が国内に庇護しているビンラーディンの組織=アルカイーダによるとされるテロ犯罪に対し「米国vsアフガニスタンの国家間戦争」でタリバン政権そのものを物理的に破壊するという筋違いの方策を採って迷走することになるのである。

その歴史的な過誤をそもそもまで遡って総括するのでなく、いま目に見えていてまことに見苦しい事態を何とか断ち切ってレガシーにしたいという、目先の政治的利益しか目にない指導者たちによって弄ばれているのがこの問題で、まさに世も末である。

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