コロナ禍にスシロー「過去最高益」の謎。スゴ腕“異色経営者”が打ち出す革命の全貌

 

早すぎる!独自開発レーン&店内は徹底した非接触

スシロー新戦略②「レーンのスピードアップ」

スシローの客によれば、パネルで注文すると、驚くほどの早さで寿司が流れてくるという。その秘密が独自に開発した引き込みレーンにあった。注文した寿司が流れる専用レーンから、それぞれのテーブルに枝分かれして寿司が届く仕組み。これにより、専用レーンが混み合うことなく、次々に寿司を流すことが可能になったのだ。

さらに、厨房から流された皿が急に進路変更。テーブルに最短ルートで届けられるよう、複雑にショートカットしていくようにもなっている。

スシロー新戦略③「徹底した非接触」

スシローの店では、入店して機械に予約番号を入れると、席を伝えるアナウンスが流れる。客が店員と接触することなく、席につける仕組みだ。店内の自動化を進めることでコロナ禍の客をつかんでいるのだ。

支払いもセルフレジ。さらに、厨房の裏にある冷蔵ボックスはテークアウト注文用。店員が入れた寿司を客が取り出すのは反対側から。テークアウトも店員と接触しなくて済む。

そんなさまざまな取り組みでコロナ禍でも攻め続けるスシロー。去年10月からの半年で24店舗も増やしている。

大阪市のとある場所に、スシローの独自レーンを作り出す部隊の開発拠点がある。引き込みレーンやショートカットレーンは、情報システム部の杉原正人ら開発部隊がこの場所で作り上げたものだ。

「正直、途中で逃げ出そうと思いました。思ったところに皿が届かないが3カ月以上続いた。本当にギブアップしようかと思いました」(杉原)

最近手掛けているのが、皿の枚数を店員が数えなくてすむ自動会計用のカメラだ。

「AIを使った画像による会計システムの目となるカメラです。画像を解析するエンジンが入っていて、撮影した皿の色を検知できるようになっています」(杉原)

客と店員の接触を完全にゼロにする切り札。いかにコロナに打ち勝つか。彼らが開発を諦めなかった裏には、トップからのこんな言葉があったという。

「コロナ禍だからこそ『今はピンチだけどチャンスに変えろ』と。『コロナはいつか収まる。今止めたらダメだ』と、常々言われています」(杉原)

スシローを率いる「FOOD&LIFE COMPANIES」社長・水留浩一は、トップに就任して6年で、スシローを回転寿司業界の“絶対王者”に導いてきた。並み居る強豪を引き離し、コロナ禍でも売上高2049億円という最高業績を叩き出した、スゴ腕の経営者だ。

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コロナ禍に最高業績~スゴ腕の異端児経営者

 スシローが自信を持って提供するメバチマグロを使った赤身。これを2貫110円で出せる秘密が、「コク旨まぐろ醤油ラーメン」(363円)にあった。魚介のだしをとっているのは、寿司には使えないメバチマグロの頭の部分だ。さらに、ラーメンに入っているカツは、メバチマグロの筋の多い部分を活用した。

スシローでは、仕入れたマグロを無駄にせず、隅々まで調理することで、高い仕入れ価格を吸収しているのだ。

「おいしい部分だけを2貫110円でお届けしたいので、全身で買って店舗で使うことで、何とかバランスが取れるように必死でやっています」(前出・山上)

鮮度にこだわるため、魚は店の厨房でさばいている。だがその横では、超高速でシャリ玉が作られ、細巻きも自動で海苔が巻かれていた。皿を全自動で洗浄し、色ごとに分けてくれるマシンもある。さらに寿司飯作りも機械化。効率化できるところは徹底的に行っている。

この日、新商品の試食会が行われた。対馬産アナゴの天ぷらだ。150円で提供したいと提案する社員に対し、水留は「めちゃめちゃうまい。これが100円だったらすごくいいけど…」。水留は誰よりも安さとうまさにこだわっているのだ。

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水留は外食業界では異端児とも呼べる経歴の持ち主だ。東京大学理学部を卒業後、電通に入社。その後、コンサルティング業界へ転身し、2005年、36歳にして外資系のローランド・ベルガー日本法人のトップにまで上り詰める。

40代になると、今度はまったく違う分野へ。2009年、破綻した企業を再建する企業再生支援機構の常務に就任した。

「僕はどちらかというと面白いことをやり続けようという発想が強い。社会で役に立つ仕事とはどういうものなのかと」(水留)

自らの経営手腕を役立てたいと入った水留は、国を揺るがした案件を担当することになる。2兆円の負債を背負い破綻したJALの再建だ。

「報道で、前原国土交通大臣(当時)がタスクフォースうんぬんと言うのを見ていたので、そこに飛び込んでいくのは大変だなと」(水留)

再建チームのトップに就任したのは、経営の神様と呼ばれた京セラ創業者の稲盛和夫だった。輝かしい経歴から副社長に就いた水留だったが、稲盛に何度となく怒られる。

「『水留くんはビジネスのことが全く分かってない』と。基本的に『ごまかそう、だまそう、隠そう』ということに対しては非常に厳しい。中長期的に維持できるように決めていくというスタンスをお持ちだったと思います」(水留)

刻み込まれたのは、「ごまかさず真っ直ぐに長期的視野で判断する」こと。それは2015年、スシローのトップとして迎えられた水留の指針となってきた考え方だ。

就任当初、水留は店舗の視察の際に、切り身になったハマチを仕入れている様子を目撃した。そのことを指摘した水留に対し、スタッフは「以前、ハマチは店内でさばいていたんですが、スタッフの数を減らすため、やめてしまったんです」と説明。効率化の名のもとに大事な味まで落としてしまっていたのだ。水留は、「おいしい寿司を提供する」という原点に立ち返り、改革を始めた。

三重県尾鷲市の「尾鷲物産」は、スシローが扱うハマチを育て、加工している。20年来の付き合いのこの会社に、水留は今年、資本参加。より鮮度のいい魚の流通を目指し、つながりを強めた。仕入れ先と一体となることで、長期的にお互いがウィンウィンの関係になれると考えたのだ。

「鮮度に対する考え方が飛び抜けている。『良いものを届けていきたい』と。厳しい水産業界の中でしっかり生き残れているのは、いろいろな仕事をさせていただいて現在の状態を作れたからだと思います」(「尾鷲物産」小野博行社長)

安くてうまい寿司の向こうには、異色の経営者のさまざまな経験があった。

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