労働生産性の上がらぬ日本で「最低賃金」を上げる厚労省の愚策

 

<解雇規制とDX>

解雇規制の厳しさが、日本企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)への対応を遅らせている要因の1つです。DXは企業の生産性を上げますが、余剰人員も生み出します。しかも、デジタル技術の進化速度を考えると、その余剰人員に対して教育訓練を実施し再配置するといった対応は難しく、その余剰人員に対しては会社を辞めてもらい、DX対応に必要な人材を、その都度、労働市場から即戦力として調達することになります。日本の解雇規制の厳しさを考えると、企業が積極的にDXを推進していくことは難しいでしょう。

リストラクチャリングが難しいとなると、不採算なものを残したままの設備投資という事になります。生産性向上にとっては、ものすごい効率が悪いですし、そもそもとして、銀行は、中小企業に対して設備投資のための融資をしたがりません。いまだに、中小企業への融資に対しては、不動産担保や社長の個人保証を求める傾向が強い。たとえ設備投資によって、今ある業務の効率が上がったとしても、それによって生じた余剰人員を解雇することができませんので、余剰人員を抱え込むことになります。そうであれば、積極的に設備投資を行うインセンティブは生まれにくい。設備投資が行われなければ、今後成長が見込めるような新たな事業や新たな産業も生まれにくく、新たな雇用も生まれてきません。

労働生産性の低い労働者の解雇もできず(ということは生産性の低い事業の廃止も簡単ではありません)、設備投資のための融資も受けられず、たとえ設備投資をしたところで生産性の向上は見込めず、それでも最低賃金は上げろという無茶ブリ。ここ10年で、最低賃金額は20%以上上昇しています(にもかかわらず、賃金構造基本統計調査によると、一般労働者の賃金額はほとんど上昇していません。労働生産性が上がっていないのですから、当然といえば当然です)。最低賃金の引き上げによって、中小企業の経営体力は低下し、結果として倒産や採用の抑制による失業率の上昇が懸念されます。特に、このコロナ禍で政府から狙い撃ちされ続けている飲食業界にとって、ここへきての最低賃金の引き上げは相当なダメージでしょう。

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