少女重体事故で注目。全国1万7千箇所の「勝手踏切」は即全廃すべきか?

rizi20211007
 

今年9月、共産党の山添拓参院議員が書類送検されたことでにわかに注目を集めることとなった「勝手踏切」。近隣住民らが日常的に使うあくまで「不法」なこの踏切に関しては、以前からその是非をめぐる議論が繰り返されてきましたが、識者はどう見るのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では米国在住作家で鉄道評論家でもある冷泉彰彦さんが、4月に人身事故が発生した神奈川県の江ノ島電鉄や、日本で一番「勝手踏切」の数が多い愛媛県を走る予土線を例に上げ打開案を模索しつつ、各々の地域や路線の事情に合わせた解決策立案の重要性を説いています。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2021年6月22日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

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「勝手踏切」を全国一律に考えるな(交通論)

踏切のようで踏切でない、一種の「けもの道」のような踏み固められた通り道が、鉄道の線路を横断している場合があります。俗に「勝手踏切」と呼ばれるものですが、ここ最近、これに対する批判が激しくなっています。契機となったのは、4月に神奈川県の江ノ電で、少女が電車にはねられて重体となるという事故が起きたことから、問題視されるようになったのでした。

こうした「勝手踏切」は全国の約1万7,000カ所に存在するそうです。法律論からすると、踏切がない場所を渡るのは違法行為になるわけですが、なかなかなくならないのが現状のようです。報道では、「鉄道会社は黙認している」というのが、専門家の見方という表現も見られました。

さて、その「専門家」の端くれである私としてどう考えているかというと、鉄道会社が黙認しているかはさておき、この問題を全国一律に考えるようなアプローチには反対です。

まず、事故が起きた江ノ電ですが、報道によれば10キロの全区間に「勝手踏切」が98箇所あるそうです。実際に法律で決められた踏切は、全て遮断機と警報機のついている「第1種踏切」になっていますが、その数は50しかなく、「勝手踏切」の方が倍近く多いわけです。

何とも異常な話ですが、解決は簡単であありません。

まず問題を複雑にしているのは現行の法令です。現行の法令では、「鉄道における踏切の新設は原則として認めない」ことになっています。日本が豊かだった時代の法律を引きずっているとも言えますが、とにかく新たな道路との交差は「立体交差」が原則であり、踏切を新設するのはダメというのが建前なのです。

では、どうしたら良いのかというと、国交省や一部の専門家からは「生活に必要なルートを別に設けて、その場所を渡るのを止めさせるべき」という意見が出るのが普通です。ですが、例えば江ノ電の場合は、崖下と海岸の間の狭い空間に道路、線路、住宅があって、住宅から道路に出るには江ノ電を渡らなくてはならず、それを迂回する道は崖で塞がれているという状況になっている箇所があります。

そうした場合には、渡るなというのは無理です。また仮に特例で踏切を設置できたとすると、今度は早朝から深夜まで警報機が鳴ってしまい、狭い崖下の空間の生活環境は悪化してしまうことも考えられます。そこで、鉄道事業者としては、住民と「暗黙の折り合い」をつけて行くしかないということになっているようです。

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