ただ、最近、アフガニスタン問題でも沈黙を貫いたように(理由としては、ウサマ・ビンラディンがサウジアラビア国籍であることで、口出ししづらかったらしい)、あまり外交的な舞台でプレゼンスを発揮できておらず、UAEの台頭と相まって、スンニ派勢力の雄らしい存在感はありません。そのことが、イラクの今後を決める段階でどのように影響を及ぼすのかは、未知数です。
これまでも中東情勢は、非常にデリケートなバランスで何とか均衡を保ってきましたが、トランプ大統領によるイスラエルを交えた国交樹立の動きによってアラビア半島におけるスンニ派勢力の結束はかき混ぜられ、そこに行く先が見えづらいイラクの情勢が絡むことで、中東全体のリシャッフルの兆しが強くなってきているように思われます。
そして、アメリカのエネルギー安全保障が確立してきたことを受け、これまでのように中東地域でのいざこざにコミットしなくなり、イスラエルも独自路線を取るようになる中、戦争を止めるような抑止要素が薄れてきているように見えます。
その隙をついてくるのが、ロシア、中国、そしてトルコでしょう。中国にとっては、その大勢がどうであれ、アラビア半島は親中国で固められているため、もしかしたら各国のギャップを埋める緩衝材もしくは糊のような立場を取ることが出来れば、一気に勢力圏を広げることが出来るでしょう。
ロシアについては、すでにイランとシリアに拠点を持っており、その2か国で挟み込むことで、シーア派の三角形を共に築くことが出来、その勢力圏もまた地盤も強固になると思われます。
そして、もしかしたら一番得をするのが、トルコではないかと思います。かつてのオスマントルコ帝国の名残、首相時代から崇められてきたエルドアン大統領の手腕と、スンニ・シーア関係なく付き合うリーダーシップ、そしてアラブ地域に及ぶ広く厚い経済的な基盤の存在などがあるため、混乱に乗じた大トルコ帝国の再興を狙ってくるかもしれません(まるで大中華帝国の再興を狙う習近平国家主席みたいですね)。
そしてトルコは、中国とも、ロシアとも通じているため、やり方によっては、ロシア中国から一気にアラビア半島を横断してトルコまでつながる国家資本主義体制の“帯”が出来てしまうかもしれません。もしそんなことが起きたら、地政学上の勢力図も一気に変化しますし、まさに中東地域が超大国の勢力拡大のための草刈り場になるかもしれません。
今回の話は、サドル師を中心とした政権がイラクに誕生するという、まだまだ不透明な内容が出来たと仮定したうえで展開したものですが、イラクから入ってくる情報をじっくりと見て、分析してみると、ただの空想とも言い切れないような気がしています。エネルギー資源の大部分をまだ中東地域に依存する日本。これぞThe地政学リスクと呼べるかもしれませんね。皆さんはどうお考えになりますか?
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