ちなみに、今回第1党となったサドル師の政党(行進者たち)は、実は反米であるだけでなく、イランからの干渉に嫌悪感を抱く“反イラン”のグループであり、かつて首相を務めたマリキ氏の法治国家連合や、元運輸大臣のアミリ氏が率いる征服連合のように親イランの勢力と、同じシーア派とはいえ、連立を組めるかは微妙な状況と言われています。
つまり、2003年のサダム・フセイン失脚後、権力の座についてきたシーア派内で不協和音が出るようなことがあると、イラクの混乱は深まることになりかねません。
自らも法学者でありながら、イランでのシーア派の会合で蔑まれた経験から反イランに転じたとされるサドル師ですが、彼自身が率いる政党(行進者たち)は貧困層を中心に支持を得ており、アメリカによる18年にわたる支配と、行き過ぎたイランによる介入、そしてその結果、イラクに飛び火する暴力の連鎖(例:米軍による空爆など)に嫌気がさしたイラク人(特にシーア派)も合わせた幅広い支持を集めているとのことです。
サドル師自身は今回の議会選挙には出ておらず、どちらかというと、イランにおけるハーマネイ師のような立場で最高指導者の座を狙っているとされ、今後、どのような連立を組むかによっては、今後のイラクの統治において強大な権力を握ることとなります。
問題は、誰と組むか。シーア派という共通点を強調して、対イランの姿勢を不問にして連携するのか?それともスンニ派やクルド人の不満を集める政党と、反イランの旗印の下、連立するのか。それによって今後のイラクの政情の安定度合いが決まるのではないかと考えます。
そのような状況下で、今回のシーア派政党が得票を伸ばした事実を利用したいのがイランでしょう。イランは、ハーマネイ師をはじめ、ライシ大統領もサドル師の勝利を祝福し、政党行進者たちの反イラン姿勢を最小化し、同時に反米ポジションで連携しようと画策しているようです。
ライシ大統領も、サドル師も、そしてイランのハーマネイ師も、筋金入りの反米主義者であり、サドル師の権威をイランでも高めるような仕掛けがなされるのであれば、ほかの親イラン勢力も巻き込んだ政権が成立する可能性も否めません。
特に、年末にアメリカが戦闘部隊の撤退を公言している今、アフガニスタンでタリバンが「(外国勢力)アメリカからの完全独立」をアピールしたように、イラクでも同様のアピールのおぜん立てができれば、もしかしたら反米・反イスラエルでイランとイラクの政権が連携して、地域における一大勢力になりうるかもしれません。
それを非常に警戒しているのが、アメリカ、イスラエル、そしてサウジアラビア王国です。まずアメリカですが、相次ぐ米軍の撤退方針からも分かるように、中央アジア・中東地域に対する関心は薄れており、どこまで本気でイラクの心配をするかは分かりませんが、同盟国イスラエルの防御と、政権に関係なくアメリカの敵として認定されるイランの伸長を防ぐという政策から、今後、成立する政権のイラン色を見極める必要を感じています。
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