また、往々にして海軍には陸上戦力を海上輸送する能力について知識が欠けていることもあります。河野さんに限って、そんなことはないと思いますが、米国の陸軍と海兵隊、そして陸上自衛隊の高級幹部なら中国が台湾侵攻に必要な海上輸送能力をほとんど備えていないというのは常識なのです。
中国の海軍力が米国を凌駕したとする米国防総省の報告書を引用している点も気になりました。
昨年公表された米国防総省の年次報告書によれば、米海軍が保有する艦艇の数は約290隻。それに対して中国海軍の艦艇保有数はおよそ350隻に達しており、報告書は中国を「世界最大の海軍」と指摘している。
これまでにも西恭之さん(静岡県立大学特任准教授)が指摘してきたように、米国防総省の『中華人民共和国が関与する軍事および安全保障の進展に関する報告書2020年版』はアンフェアなものなのです。
報告書は、「中国人民解放軍海軍は世界最大の海軍であり、約350隻のバトルフォースは主要水上戦闘艦、潜水艦、外洋航行可能な揚陸艦艇、機雷戦艦艇、補助艦艇を含む」と述べています。しかし、そこに自分たち米海軍がバトルフォースに含めていないサイクロン級哨戒艇(336トン)より小型の中国艦艇である86隻のミサイル哨戒艇や、中国沿岸の哨戒以外の能力が低い49隻の056/056A型コルベット(護衛艦)まで含めて350隻としているのです。これでは、数字だけを見ると中国の方が米国より大きなバトルフォースを持っていることになり、中国海軍を実態より誇大に見せることになってしまいます。
このデイリー新潮の記事の通りの主張を河野さんが繰り返すとすれば、単に危機をあおっている、危機を演出しているとして、記事で触れているハイブリッド戦の脅威や中距離弾道ミサイルの日本配備の問題も、眉に唾をつけて扱われる可能性があります。機会を見て、河野さんが必要なファクターを踏まえた記事を国民に示すことを望んでやみません。(小川和久)
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