とはいえ、実際にかつてSeven Sistersと呼ばれた世界のエネルギージャイアント各社が掲げる“脱炭素”は、どこまで振り切れているとお考えでしょうか?
脱炭素宣言の裏で、きちんと、脱炭素が実行不可能であると認識された際に、もともとのメジャービジネスに回帰できるように、石炭と天然ガス、原油の権益はキープしています。
恐らく振り切って、炭坑や油田開発、天然ガス田のオーナーシップなどのポートフォリオの売却を行い、その分を再生可能エネルギーへのシフトに振り分けているように見えるのは、日本企業だけかもしれません…。
この話題はまた別の機会に。
その流れに逆らえないと感じるか、危機感を感じた投資銀行各社も、投資先の企業に対して、ESGの観点から脱炭素型経営への転換を要請する事態になっています。要請の中には、女性の取締役の割合を増加させるべきといった内容や、生産や調達において人権に配慮する必要性といったように、素晴らしいと感じる内容も含まれていますが、全面的に反対ではないにせよ、脱炭素関連の提言や要請には、少し気持ち悪さを感じています。
再生可能エネルギーへの転換を図るべきだというアイデアに対しては、私も100%賛成ですし、クライアントにも“ある程度、年限を区切って行いましょう”と助言を行っていますが、「いますぐに石炭から手を引いて、再生可能エネルギーにシフトせよ」とか、「原発を今すぐ停止して、再生可能エネルギーへのシフトを行え」という意見には賛同できません。
議論を呼ぶところではありますが、「原発への過度の依存は改めていかなくてはならないが、再生可能エネルギーや水素、アンモニアといったエネルギー源が、100%reliableで、安定的に電力供給を行えるまでの移行期については、脱炭素という観点からは有効かつ安定供給を可能する手段である」との見解を私はずっと示しています。
その理由は、「日本を含む各国のエネルギーの構成が、まだ再生可能エネルギー100%で賄える状況にない」というものです。
言い換えれば、膨れ上がるエネルギー需要の高まりに応えることが出来るだけのreliableなエネルギー源に育っていないと言えます。
欧州各国を中心に、ここぞとばかりに再生可能エネルギーへのシフトが叫ばれ、非常に野心的なターゲットが掲げられていますが、実情はどうでしょうか?
日本がよくお手本にあげるドイツは、脱原発および脱石炭を謳っていますが、毎年のように冬にはエネルギー・電力不足に陥り、隣国フランスの原発由来の電気の融通を受け、あまり表立って言いたがりませんが、旧式の石炭火力発電を行って何とか賄っている状況です。
そして、ドイツのエネルギー安全保障を支えているのは、再生可能エネルギーではなく、天然ガスですが、現在の天然ガス価格の高騰により、ドイツも、そしてその他の欧州各国も、大きなダメージを受けています。
そこでそのような状況に対してほくそ笑んでいるのが、欧州各国に天然ガスをパイプラインで供給するロシアです。
ウクライナ問題をはじめとする各問題で欧州各国から袋叩きにあい、欧州のみならず、各国が急激な脱炭素と再生可能エネルギーへのシフトを進める中、その地政学的な強みを失いかけていた矢先、天然ガス価格の高騰により、一気に欧州各国の首根っこを掴むことができるという力を取り戻しました。
これまでにも何度も行なったり、脅しに使ったりしてきた天然ガスパイプラインの停止という荒業もまだ使うことなく、欧州各国からロシアに向けられていた非難の波を和らげ、地政学超大国に返り咲いています。
まさに昨今、日本でもトレンドとなっている経済安全保障の一例です。
そのような状況を嘲笑うかのように、EUメンバーでありながら、グリーンな政策には反旗を翻すブラウンな経済と言われるポーランドは、石炭火力発電の発電キャパシティーをEUの指令に反して増加させて、自国と、親ポーランド国へのエネルギー融通を行っています。
いずれ石炭火力発電や原発から撤退すべきだと主張し、日本や中国、アジア各国を袋叩きにしつつ、実際には思い切り石炭と原発に依存する欧州経済の実情が少しは垣間見られるでしょうか?
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