“脱炭素祭り”で日本を袋叩きにするEU「石炭と原発依存」の不都合な真実

 

次にClimate financeの実情についてです。パリ協定の下、先進国全体で毎年1,000億ドルの資金援助にコミットすることが約束され、これまでのところ、そのコミットメントはきちんと達成されています。今回、議長国英国をはじめ、ドイツ、カナダなども追加支援にコミットして、気候変動対策に真摯に取り組む姿勢を示そうとしています。

日本もこれまでに表明した600億ドルに加えて、新たに今後5年間で最大100億ドル(約1兆1,350億円)の追加支援を行い、アジアなどの脱炭素化に貢献すると表明しました。

アメリカは、残念ながら、バイデン大統領の意思とは別に、議会上下院が追加支援に対する大統領案を支援しなかったため、COP26の場(バイデン大統領にとっては、America is Backをアピールする格好の機会)での表明はできませんでしたが、そう遠くないうちに、追加支援の輪に加わるのでしょう。

結論から申し上げますと、これはまず賛辞が寄せられてよいはずの貢献であるはずです。誰かのポケットマネーではなく、先進国国民の税金からの支出なわけですから。

しかし、現状はどうでしょうか?途上国も、NGOも挙って「先進国は金で問題解決をしようとしており、何の努力もしない」と批判しています。そして極めつけは、もう世界最大もしくはかろうじて2位の地位を占める中国が、先進国に公開書簡を送り付けて【先進国から途上国への資金支援拡大を求める】というアピールをしたことでしょう。

UN下では、経済的な状況が変わっても、中国は常に途上国グループ(G77+China)の雄として先進国と戦ってきた経緯がありますが、もうさすがに「中国は、支援する側ですよねえ」という突っ込みを入れたいところです。

ちなみにその中国ですが、今やIMFでも世界銀行でも、国際開発金融の国際機関においては理事を務めるれっきとした支援国のはずです。

そして、その中国は、脱炭素祭りにおいては、実際にはリーダーであり、もっとも得をすると考えられる“再生可能エネルギー超大国”であり、また“脱炭素化のチャンピオン”でもあるという事実をご存じでしょうか?

国内での太陽光発電の敷設と普及もすさまじいものがありますが、世界に広まっている太陽光パネルではそのシェアの7割、風力発電用の機材においても6割近くを占めています。つまり、言い方を変えると、再生可能エネルギーへのシフトが急速に進めば進むほど、中国はさらに経済的に利益を拡大するというシナリオになります。

同じことは、エネルギー以外の脱炭素化でもそうでしょう。太陽光発電パネルの話はさきほどしましたが、自動車の電力化、つまりEVの導入拡大において、その心臓部ともいえるリチウムイオン電池(バッテリー)を製造するために必要とされるレアメタルを、少なく見積もっても6割から7割のシェアを持つのも中国です。つまり今後、他国が中国依存度を低下させるための時間よりも短い間に脱炭素化を一気に進めれば、ここでも肥えるのは、中国というシナリオが出来上がります。

単純化だとお叱りになるかもしれませんが、これもまた一つの事実と言えるでしょう。

ESGのルール作りを主導したうえで推進し、環境保護の名の下、脱石炭と脱炭素の音頭を取り、新たなルール作りと環境マーケットでの主導権を模索する欧州は、同時にアメリカと共に対中包囲網を築いて、中国への警戒を高めています。しかし、その方針が逆に中国への依存度を高めることになり、軍事のみならず、経済的にも脅威と位置付ける中国の成長をさらに加速させることに繋がっているとしたらどうでしょうか?

ちょっとひねくれた考え方かもしれませんが、本当にどこまで本気で中国脅威論を述べて、対抗しようとしているのか、わかったものではありません。まさに国際情勢の裏側と言えるかもしれません。

国際情勢の裏側、即使えるプロの交渉術、Q&Aなど記事で紹介した以外の内容もたっぷりの島田久仁彦さんメルマガの無料お試し読みはコチラ

 

print
いま読まれてます

  • “脱炭素祭り”で日本を袋叩きにするEU「石炭と原発依存」の不都合な真実
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け