政府による虐殺やレイプも。建国以来最大の危機に陥る「多民族国家」の空中分解

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先日掲載の「性暴力や拷問、虐殺も。タリバン報道の裏で進行するアフガン以上の悲劇」でもお伝えした、アフリカ最古の独立国であるエチオピアの大混乱。あれから2ヶ月ほどが経過しましたが、事態はさらに深刻度を増しているようです。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、混迷を極めるエチオピアの現状を詳しく解説。さらに複雑に絡んだ関係諸国の思惑を読み解くとともに、エチオピアの地で命の危機に晒され続けている無辜の民を救うため、日本政府がなすべきことについて考察しています。

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空中分解した多民族国家─エチオピアが弾くアフリカの角崩壊へのトリガー

2021年11月4日。1年前の同じ日に、エチオピア政府軍とエチオピア北部ティグレ州の武装勢力TPLFとの間で紛争が勃発してから1年が経ったその日、東アフリカの大国エチオピアは、その国家としての結束を失いました。

実際には、まだエチオピアという国家は存在しますが、多民族の統合体として成り立ってきた国家の基礎は崩壊したと思われます。

2020年11月4日に勃発したティグレイ紛争の原因は、TPLF側がティグレ州に隣接するアムハラ州の政府軍基地にロケット弾攻撃を仕掛けたことと言われています。かつて30年にわたり、エチオピア政治の実権を握ってきたTPLFが、2018年にできたアビィ政権(オロモ族出身)によって阻害されたことへの反攻が、この紛争の始まりです。

その紛争は、隣国エリトリアとの長年の紛争を終結したことで、ノーベル平和賞を授与されたアビィ・アハメド首相とその1年前にできた繁栄党(Prosperity Party)の下に結集した政府軍の反撃によってティグレ州の州都メケレが陥落され、僅か3日間で終了したはずでした。

しかし、TPLF側は反抗をやめず、今年6月にはメケレを奪還し、その後は、破竹の勢いで隣のアムハラ州、そしてアファール州を制圧し、7月にはいつ首都アディスアベバへ侵攻してくるかと噂されるほどの勢いを見せつけ、国内を一気に混乱へと陥れました。

紛争が始まった当初は、30年にわたるTPLFによる独裁に嫌悪感を抱く他州・他民族はアビィ政権に味方しましたが、いくつかの出来事を受けて、その対TPLF感情と対政府感情のバランスが動き始めました。

そのきっかけとは、【大多数のエチオピア人が信仰するエチオピア正教の聖地ラリベラ(アムハラ州)をTPLFが非暴力で獲得したこと】【長引く戦禍の下、政府軍側による反ティグレプロパガンダと、政府軍による虐殺・レイプ・財産の押収などの悪事が次々と明るみに出てきたこと】が主なものです。

この紛争により、ティグレ州からは少なく見積もっても600万人が隣国スーダンに逃れ、国連機関や欧米諸国を中心に難民支援が昨年末から行われていますが、TPLFの反攻が活発化して以来、国際社会からの支援活動も、エチオピア政府によって妨害されるという事態に陥り、その結果、520万人が飢餓を含む、人道的な危機に直面しているのが現状です。

政府側はTPLF側による陰謀だと非難を続けますが、ここにきて隣国エリトリア軍が越境し、エチオピア政府軍とともにティグレ州とその人々に対する大量殺戮行為および性的暴行、略奪などを繰り返していることが明るみに出てきて、アビィ政権側は国際社会からの非難の的になっています。

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