政府による虐殺やレイプも。建国以来最大の危機に陥る「多民族国家」の空中分解

 

今年に入ってからは、国連安全保障理事会において【アフリカの平和安全保障(Peace and Security in Africa)】のアジェンダ(議題)で毎月のように取り上げられ、今年の夏以降は、これまた長引くルネッサンスダムをめぐる抗争の影響も絡んで、アフリカの周辺国からも問題視されるようになり、エチオピア政府は国際社会における孤立の道へと追いやられています。

かろうじて最大の投資国である中国やロシアという安全保障理事会常任理事国の“同情”のおかげで、安保理決議による制裁は免れていますが、度重なる蛮行と隣国エリトリアと共に行うティグレ人の民族浄化の試みなどが明らかになるにつれ、もう庇いきれない状況が出てきました。

そして、決定打となってしまったのが、11月2日にアビィ政権が行ったティグレ州への空爆と、その際にアビィ首相が述べた「ティグレを完全に消し去るまで、この戦いは止めない」という民族浄化の指示ともとれる発言の公表です。

これは、8月に訪問し、ティグレ難民に対する支援の指揮を執ってきたUN=OCHA(国連人道支援局)局長のグリフィス氏および、安全保障理事会の理事国の怒りを買い、ついにはアメリカのバイデン政権は対エチオピアの本格制裁に乗り出すことを発表しました。

まず、エチオピア国内でプロジェクトに従事するすべての米国人に対して即時退去を命じ、また来年1月1日付で、これまでエチオピア政府および企業に対して与えていた貿易上の特恵待遇を廃止することを表明しました。

ちなみにアメリカにとっては、エチオピアは実は東アフリカの要所であり、Horn of Africa(アフリカの角)と呼ばれる戦略的拠点として、軍事的にも、またCIAのblack siteを置き、2001年以降展開されてきたGlobal War on Terrorismのアフリカ・中東地域の拠点としても重用してきました。また経済的にも、ここ20年連続で年率10%ほどの経済成長を支える重要なパートナーとして存在してきました。

それらを今、すべて捨てる覚悟を示したと言えます。

欧州各国も挙って米国の方針に倣い、人員の退去を進め、そして投資の引き揚げ・凍結も進めています。

その最たる理由は、先述した暴行・民族浄化の動きなどの人権侵害・人権蹂躙を進めるエチオピア政府への抗議です。

昨年来、欧米企業を中心に(日本企業もそこに含まれる)エチオピアの国営企業の民営化事業に投資し、今年に入ってからは凄まじいポテンシャルを持つエチオピアテレコムのシェアの獲得に乗り出しました。これまでの農業支援などと合わせ、年率10%を超える安定した経済成長率を誇ってきたエチオピアは、さらなる繁栄と安定に向かうはずでした。そして、欧米企業の進出を受けて、高まり続ける中国資本への依存度とのバランスを取りたいとの意図もあったようです。

しかし、その夢も今回の件で潰えることになるかと思われます。これまでは、アビィ首相がノーベル平和賞受賞者ということも手伝って、アビィ政権による統治を、欧米諸国も支援してきましたが、彼の政権による著しい人権蹂躙の事例が増えるに従い、欧米資本が次々と引き上げられています。

現段階ではまだテレコムプロジェクトはongoingのようですが、多国籍で形成されるコンソーシアムという性格上、ミャンマーにおけるクーデター後の状況と同じく、欧米のシェアホルダーの離脱も十分にあり得るシナリオです。

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