政府による虐殺やレイプも。建国以来最大の危機に陥る「多民族国家」の空中分解

 

欧米からの非難を受けても、アビィ政権が強気でいられる理由は、鉄壁ともいえる中国からの支援、ロシアからの政治的なバックアップ、そしてトルコとの友好関係などが存在するからです。

中国については、先に触れたテレコムのインフラはほぼすべてすでに中国によって敷設されたものですし、隣国ジブチとの間に敷設された鉄道や道路も中国によって建設され、ジブチ港を介した貿易、そしてエチオピアの外貨獲得のための大動脈となっています。

北京からの情報では、あまり内政干渉しない中国政府でさえ、現在のエチオピアで起きている状況に対しては大きな懸念を抱いているようですが、どうも欧米諸国のように人権問題というよりは、すでに投入している投資の大きさ故、つぶせない国との認識からの懸念であるようです。

もともと中国との太いパイプを築いたTPLFは、エチオピア経済が中国との貿易そして、ジブチ港を介した取引にかなり依存していることを知っており、今回の紛争において、そのジブチとの国境にあるアファール州を手中に収め、そしてもう一つの隣国スーダンとの国境にあるアムハラ州のコントロールも握ることで、アビィ政権の首を締めあげようという戦略に打って出ているようです。

そこに対TPLFおよびティグレ人の悲劇に対する国際的なシンパシーが加わり、アビィ政権の旗色は大変悪くなってきています。

そして、さらには11月2日の空爆で、十数名の国連職員が巻き込まれて被害にあったことと、十数名の国連職員がエチオピア政府当局にスパイ容疑で拘束されるという前代未聞の状況が、さらに国際社会におけるエチオピア政府の孤立を深くさせています。

ティグレイ紛争だけでもこのような悲惨な状況になっていますが、ここに隣国スーダンと長年戦っている国境地(肥沃な農地)の所属問題は、常に火種として存在し、そこにスーダンとエジプトを相手取ったルネッサンスダム問題も、開戦前夜ではないかと言われるほどの緊張の高まりです。

そしてそのスーダンですが、先日お話ししたように、軍勢力によるクーデターも発生し、国内情勢が非常に不安定になっているところへ、かつて戦争の結果、分離した南スーダンからのプレッシャーと、エチオピア政府による反政府勢力への肩入れ、エリトリアからのちょっかい、ソマリアからの圧力などが加わり、こちらも一触即発の危機に瀕しています。

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そしてエチオピア国内でも、一旦結束したはずの繁栄党の結束が緩んできていますし、各地で各民族グループが反政府運動を活発化しており、エチオピア政府の友人曰く、おそらく建国以来最大の危機に面しており、もしかしたら国家としての体をなさないことになるかもしれないとのこと。

地域を悩ます問題に先述のルネッサンスダム問題が存在しますが、まさに不満分子が流す水が多方面から東アフリカ全体に流れ込み、いつ、どこで決壊し、地域全体を飲み込む事態になるか予測できない状況になってきました。

最悪の場合、エチオピアという国がなくなるどころではなく、非常にデリケートなバランスの上に成り立ってきた東アフリカの安定と平和が一気に崩れ、再び地域をエンドレスな紛争に導きかねないと言えます。

それを察知しているのでしょうか?

皆さんもご存じのようにアフリカ連合(African Union)の本部はエチオピアの首都アディスアベバにあり、各国から代表が来て駐在していますが、メンバー国はじわじわと自国の駐在員を退避させ始めていますし、欧米諸国については、大使館員および家族の退避をはじめ、そして企業は投資の引き揚げを加速させ始めました。

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