きっかけは「鹿」。世界的エンジニアが、ドローンベンチャーを設立した理由

 

私がパソコン業界で成功出来たのは、パソコンの黎明期にプログラミングを覚え、その上、絶妙なタイミングで、業界の大きな役割を果たすことになったマイクロソフトで働くことになったからです。

つまり「たまたま良い時期に良い場所にいた」から、成功することが出来たのです(英語の“right time at right place”というフレーズは、こんな場面で良く使われる表現です)。

この業界には、そんな絶好のタイミングが10年に一度ぐらいやって来ます。パソコンの次はインターネットだったし、その次はスマートフォンです。

Microsoft、Intel、Amazon、Google、Facebook、Appleのいずれもが、大成功を収めることが出来たのは、そんな時代の変わり目に、絶妙なタイミングで「変化をリードする」立場に立つことが出来たからです。

そして2021年の今、多くの会社が莫大な投資を始めているのは、AR・VRを活用したメタバースです。この世界は、すでに黎明期を越え、既に多くの人々がチャンスだと気がついているので、爆発的な成長期に入ったと言えます。

ドローンそのものは徐々に普及し始めていますが、ドローンがパソコンやスマホのように幅広く使われるようになるには、ソフトウェアとハードウェアの両方が大きく発展する必要があります。その意味では、(AR・VRと違って)まだま黎明期なのです。

そう考えると、これは私にとって「絶好のチャンス」のように思えるのです。これまでの経験により、そんな黎明期に何をすべきかは良く分かっているし、業界全体のイノベーションを加速するには、何を作れば良いかも手にとるように分かります。

このチャンスに気がついたのは、Xevoを売却したばかりの2019年の中頃でした。

そこで、早速、このアイデアを友人のRichに話ました。Richは、Microsoft時代の同僚で、Microsoftを辞めて2000年にVC(Venture Capitalist:ベンチャー投資法人)のIgnition Partnersを立ち上げた仲間です。私と違って、ずっとVCにいたRichであれば、客観的にビジネスチャンスを判断してくれると思ったのです。

Richの反応は、私の予想を遥かに越えたものでした。「素晴らしいアイデアだ。すぐにでも会社を立ち上げよう!」と大はしゃぎをしているのです。

Xevoの買収の後、一息付きたかった私は、すぐに会社を始める気はなかったし、週に80時間も働かなければならないCEO職はやりたくなかったので、その場は、とりあえずお開きにして、それぞれ持ち帰って作戦を立てることにしました。

私自身、「少し早すぎる」と感じていた面もあります。私が最初に立ち上げたベンチャー企業UIEvolutionは、2000年に立ち上げた会社ですが、少し早すぎました。実際の売上に結びつくところまで成長させるのに10年近くの年月がかかってしまいました。たまたま、スクエニによる買収(2004年)の後にMBOによるスピンアウト(2007年)、という遠回りをして、辛うじて独立した会社として成長させることが出来ましたが、あの「遠回り」がなければ、藻屑のように消えていた会社です。

ドローンベンチャーを立ち上げても、まともな売上に結びつく前に息切れしてしまっては、意味がありません。立ち上げるなら、絶妙なタイミングで、それも、できるだけ多くの資金を集めて、一気に市場を取りに行く必要があると考えたのです。

そんな私と違い、Richはすぐにも会社を立ち上げたい様子で、私に「いつ会社をつくるんだ」と何度も催促して来ました。2020年に入ると、この会社のビジョンに惚れ込んだというエンジニアを連れてきて、彼らと一緒に会社を作ろうと迫って来ます。

その頃には、私はPhil Libinが立ち上げたmmhmmに投資家兼エンジニアとして深く関わり始めたので、「CEOにはなれないけど、それでも良いなら立ち上げて良いし、資金も提供して良い」と答えました。

その結果、誕生したのがnetdronesなのです。私がCEOではなく、Chairmanなのはそれが理由です。

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