韓国で「財閥」創設。ロッテ創業者・重光武雄の“タイムマシン経営”とは

 

朴正熙政府は米国の支援、ベトナム参戦、日韓国交正常化によって経済を安定させていたが、のちに「漢江の奇跡」と言われる経済発展を実現するために、在日朝鮮人の母国投資を呼びかけた。しかし、この当時、日本にいる在日1世の経済人の中で、母国に投資できるほどの人物(企業)はわずかだった。

日韓条約による国交正常化後の円借款(有償・無償5億ドル、民間借款3億ドル)は、現金で資金が提供されるのではなく、計画されたプロジェクトに現物として援助が提供されたものだったため、利権争いに地縁・人縁が介入する余地が生じてきた。

「5.16革命」の主役者となった朴正熙少将は、慶尚北道亀尾の出身で、さらには朴正熙政府の要人であった李厚洛は重光と同じ慶尚北道蔚山市の出身であった。しかも、重光は1921年生まれ、李厚洛は1924年生まれで、ほぼ同年代と言ってもよく、重光の韓国進出にこの地縁・人縁が、大きな影響を与えたことは言うまでもない。

重光が1967年に「祖国に貢献する」との信念から韓国に進出し、韓国政府との間で様々な事業計画が立案され、製鉄業などの国家の重要事業への参入を持ちかけられたが反故(ほご)になったこともあった。

重光は本業の製菓業に戻って、ロッテ製菓は韓国でハーブミント、クールミント、ジューシィミント、ペパーミント、オレンジボールガム、フーセンガムという日本での発売時期が異なる6つの主力ヒット商品を一斉に発売し、さらには「ガム日本一」となった「1,000万円懸賞」の韓国版も展開し、韓国の消費者を驚かせたりした。

重光はロッテ製菓の設立により、1年の半分は韓国、残り半分は日本で過ごすという、「重光武雄・辛格浩」というその後40年にわたるシャトル経営がこの頃から始まる。

韓国政府は重光の「タイムマシン経営」に着目するようになり、朴正熙大統領の「開発独裁」の下で、石油化学、建設、ホテル経営、流通へと事業拡大を続け、韓国でコングロマリットを築いていくことになる。

その先鞭となるのが、前号で紹介した半島ホテルの買収で、朴正熙大統領から「ぜひ、ソウルでホテル経営をやってもらいたい」と懇願されたことは有名である。

(続く)

(宮塚コリア研究所代表 宮塚利雄)

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