深刻な鉄道車両内の“治安悪化”に専門家「鉄道警察隊を公費で投入せよ」の大胆提言

 

そこで問題になるのが、車掌、駅員などの鉄道事業会社の側の要員に、問題解決のスキルを高めてもらうという案です。相手の暴力を無力化する護身術とか、興奮する犯人を説得する交渉術などを訓練して、全体的に治安維持に寄与するようにするのです。

悪いアイディアではないし、積極的に取り組むことで乗務員や駅員への利用者の尊敬心も高まるでしょう。まして、酔った悪質な利用者が、駅員などを暴力のターゲットにするというような問題の対策にもなります。

ですが、この対策は現実的ではありません。鉄道事業というのは、延々と続く人口減による市場縮小に加えて、丸2年以上に及んでいるコロナ禍による「外出の低迷」により、経営危機が「前倒しになって」います。その解決策としては、減便や電化の廃止などがありますが、決定的なものとしては「乗務員の縮小」というのが方針となっています。

つまり、運転士と車掌の乗務している列車はワンマン化し、ワンマンの列車は将来的には自動運転化するというのが大きな方針になっています。具体的には、東京の山手線や京浜東北線、横浜線などではワンマン化が検討されていますし、地下鉄の丸の内線や銀座線などではワンマン化は既に進行しています。

たとえば都市圏では、駅におけるホームドアの設置が進んでいますが、これは落下防止と同時に、究極のワンマン化対策という面を持っています。つまり、ドアの開閉を車両側ではなく、駅側で安全確認して行うというオペレーションになるからです。

ということは、いくら治安確保の要員として期待しても、そもそも「車掌」というのは廃止されつつあるのです。とにかく、1つの列車に2名の乗務ということを前提にしていては、経営は成立しなくなってきている、鉄道事業者の苦境はそこまで来ているからです。

全く別のアイディアとしては、車内に警報ボタンを多く設置するとか、スマホのアプリから警報が発信できるようにするなどといった対策も考えられます。ですが、走行中の事件であれば、車掌がいないケースなどでは警報が入力されても、対応はできません。それに、警報ボタンをやたらに増やしたら、イタズラなどでかえって治安悪化につながる可能性もあります。

色々と検討してきましたが、結局のところは「警備要員」を乗車させて巡回するしかなさそうです。例えば、「ジョーカー事件」を受けて、京王電鉄は有料の着席列車「京王ライナー」で、警備員の乗車と巡回を開始したようです。

この有料着席列車の場合は、特に追加料金を払わずに乗車するというケースを許すと、それで車内の治安が崩れる危険があります。反対に追加料金という原資を使って警備員の人件費を捻出することが可能というような点から、警備員の乗車ということが可能になったのだと思われます。

同様の工夫は、JRの近郊列車における「グリーン・アテンダント」に護身術や防犯対応を強化するとか、あるいはこれも警備員に変更するなどの対策は、可能と言えば可能でしょう。

ですが、他の普通列車に関しては、現在の料金体系のままでは、車掌の削減を必死にやっている中で、警備員の人件費までカバーするのは難しいように思われます。では、その分だけ運賃を上げればいいということになりますが、運賃を大幅に上げれば、今度は各企業が通勤手当を払わなくなり、そうすると長距離通勤は全部自腹になるので結局は高額の定期は売れなくなって鉄道は衰退してしまいます。

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