深刻な鉄道車両内の“治安悪化”に専門家「鉄道警察隊を公費で投入せよ」の大胆提言

 

では、安い運賃の線区は荒れるに任せてということになれば、それこそ暗黒の近未来ということになりかねません。首都圏や近畿圏の近郊鉄道ネットワークが、90年代や2021年後半のNY地下鉄のようになったらと思うと、ゾッとします。

結論を申し上げるのならば、効果的な対策は治安対策要員の乗車ですが、そのコストを全部事業者が負担して、それを運賃に転嫁するのは日本経済が現況のような低迷状態にある中では成立しないと思います。ですから、この治安対策要員のコストについては公費負担とすべきです。

そこで考えられるのが鉄道警察隊の存在です。国鉄改革の前は、国鉄自体が役所でしたから、そこに鉄道公安官という存在があり、鉄道車内や施設内の治安維持にあたってきました。JR発足後は、民間が警察機能を持つのはおかしいということから、警察の組織として鉄道警察隊というのが発足して、鉄道公安官制度を受け継いでいます。

この鉄道警察隊を拡充するのです。現在はこのような立派な組織がありながら、その主な任務は「車内の窃盗」つまり「スリ対策」になっています。また痴漢行為なども捜査対象ですが、鉄道警察隊が率先して摘発や冤罪撲滅のために研究や努力をしているという報道はありません。

どうも、この鉄道警察隊、権限も予算も十分ではないようです。ですから、この機能を拡充して、第一の任務として鉄道車内、鉄道施設内における暴力行為の摘発と抑止に集中してもらい、人員も相当な数を用意するのです。

それではコワモテの警官が多数乗車して、鉄道の雰囲気が悪くなるといった声があるかもしれませんが、この点については権威主義的な警察カルチャーではなく、一般の利用者にはソフトなアプローチをしつつ、暴力に対しては徹底的に厳格な姿勢で向かい、まず市民の支持と支援を取り付けることが肝要です。

そもそも警察が市民に対しても権威主義的に振る舞い、例えば宮藤官九郎さんや藤川球児さんが「怪しいので職質を受ける」などということは、呆れてモノが言えません。コロナ禍の中で、外国人を締め出している中で、街を歩く外国人は日本国籍か日本人の配偶者、あるいは日本企業の長期雇用者である可能性が極めて高い中で、外国人に職質をかけて米国大使館からワーニングを出されるなどというのも、それではテロリストの思う壺です。

そういった間違ったことにエネルギーを使って、市民の協力を消極的にしたり、市民に敬遠されるのではかえって治安は悪化するからです。この鉄道警察隊の拡充にあたっても、徹底的にソフトで洗練されたアプローチで、市民の信頼を確保すること、これが前提になります。

例えば、SPの要人警護にあたって、派手な服を着て怖い目つきで行うパターンと、目立たないルックスと柔和な表情をキープしてしっかり監視だけは行うパターンの2種類があるとされています。拡大自殺や常習犯などの脅威に対しては、前者のアプローチでの抑止は効果が薄く、後者のアプローチでしっかり摘発と犯行予防を行なっていく、そのためにも市民の理解と協力、いや支持と支援を引き出すような警察になって欲しいと思うのです。

最終的な手段かもしれませんが、鉄道における治安維持には鉄道警察隊の投入が決め手になると思います。その場合のコストは、公費で負担すべきです。

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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