ホンマでっか池田教授が考える「ペットの寿命」と「ヒトの余命」

 

石川先生の飼っていたクサガメは微妙である。カメ(爬虫類)は鳥類と近縁で、哺乳類とは系統的に少し離れている。これらの3つのグループは羊膜類と呼ばれ、胚が羊膜に包まれて羊水に浮かんで発育する。羊膜類の共通祖先は、古生代ペルム紀初期(約2億8000万年前)に両生類から分岐した。脳の基本構造が同じなので、基底の所で情動は共通すると考えられる。だから、カメとは喜びや楽しさ恐怖は、多分、多少は共有できる。悲しさは高等な感情なので、恐らくカメは感じないと思う。

さて、多くのペットは人間より寿命が短いので、亡くなれば、喪失感はあっても、仕方がないと諦めれば、それで済む。ところが人間よりもはるかに長生きする生物の場合は、自分が死んだ後、残された生き物のことを考えなければならない。僕の友人が、かつてセマルハコガメを庭で飼っていたところ、どんどん増えて、庭をカメが歩き回っていたらしい。それを見た彼の友人が欲しいというので、何頭か譲ったところ、友人は10年後に亡くなってしまった。奥様がカメを連れて、引き取って欲しいと見えられたとのこと。

それでも、クサガメやセマルハコガメは、寿命が50歳くらいなので、大したことはない。ゾウガメの中には人間の倍以上長生きするものもいる。飼い主が次々に亡くなっても、殉死させるわけにもいかず、誰かが世話をしなければならない。

ハリエットと名付けられたガラパゴスゾウガメのメスがいる。ものの本によると、1830年11月15日に生まれたとある。生年はともかく、何で誕生日まで分かるのか不思議だが、ウィキペディアには1830年頃に生まれたとあるので、そちらの方が正しいのかもしれない。一説ではダーウィンが1835年に捕獲して、ガラパゴス諸島から連れてきた3頭の中の1頭で、暫く経ってからオーストラリアの友人に贈ったものだという。

遺伝子鑑定の結果、ハリエットはガラパゴスゾウガメの亜種のサンタクルスゾウガメで、ダーウィンはサンタクルス島には訪れていないので、ハリエットはダーウィンが連れてきたカメではないとも言われている。それはともかく、ハリエットは100年以上もの間オスと思われていて、ハリーという名で呼ばれていたが、名前は人間の都合で付けられるので、当のカメにしてみれば、ハリーだろうがハリエットだろうがどうでもいいに違いない。

オーストラリアに贈られたハリエットは99年間、ブリスベーン植物園で飼われていたが、その後、オーストラリア動物園に移され、2005年11月15日、175歳の誕生日にハイビスカスの花で作ったケーキをお祝いにもらって盛大に祝福された。ハリエットはハイビスカスが大好物だった。2006年6月23日、心臓発作により死去。ダーウィンはもちろんのこと、ハリエットの飼い主は次々に亡くなったに違いないが、ハリエット自身は飼い主が死んでも、別に悲しくはなかったろう。そこがイヌと違う所だ。イヌは飼い主が亡くなれば、悲しそうな顔をする。(『池田清彦のやせ我慢日記』2022年2月25日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください)

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