小泉悠氏が解説、徹底抗戦を覚悟するウクライナの戦略

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世界有数の軍事大国であるロシアの侵攻に、徹底抗戦の構えを崩さないウクライナ。ゼレンスキー大統領の支持率も91%に急上昇するなど国内の結束が強まるウクライナですが、圧倒的な兵力を誇るロシアとの戦いはこの先どのような展開を見せるのでしょうか。今回のメルマガ『小泉悠と読む軍事大国ロシアの世界戦略』ではロシアの軍事・安全保障政策が専門の軍事評論家・小泉悠さんが、この「戦争」に至るまでの動きを改めて振り返るとともに、どこまでエスカレートするかを考察。さらに「核の脅し発言」まで行なったプーチン大統領の異様性を指摘しています。

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※ 本記事は有料メルマガ『小泉悠と読む軍事大国ロシアの世界戦略』2022年2月28日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール小泉悠こいずみゆう
千葉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修了(政治学修士)。外務省国際情報統括官組織で専門分析員、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所(IMEMO RAN)客員研究員、公益財団法人未来工学研究所特別研究員などを務めたのち、現在は東京大学先端科学技術研究センター特任助教。

ついに始まってしまったウクライナ侵攻

あまりにも怪しげな「大義」

すでに広く報じられているとおり、2月24日にロシアのウクライナ侵攻が始まりました。しかも、一部で言われていたようなドンバス地方での限定攻勢ではなく、北部(ロシア及びベラルーシからキーウ・ハルキウへの攻勢)、東部(ドンバス方面への攻勢)、南部(クリミアからヘルソン方面への攻勢)という極めて大規模なものです。

これはもはや「軍事介入」などというものではなく、公然たる「戦争」と呼ぶほかないでしょう。

しかし、現在の国際安全保障の基礎を成す国連憲章は、国家間紛争を解決する手段としての戦争を明確に否定しています。それを国連常任理事国(しかも今月は議長国)であるロシアが公然と始めたわけですから、国際的な非難を浴びるのは当然でしょう。

一応、ロシア側は、これが戦争ではないという建前を取っています。2月24日、国民向けに公開されたビデオメッセージの中で、プーチン大統領は今回の軍事行動を「特別軍事作戦」であると位置付けました。その意味するところは明確にされていませんが、ひとことで言えば、これは自衛のための行動だということでしょう。

プーチンの言い分はこうです。

曰く、ゼレンシキー大統領率いる現在のウクライナ政府は「ナチス」であり、ロシア系住民の虐殺を行っており、これを止めなければならない。曰く、ウクライナ政府は外国(西側が示唆されている)の支援を得て密かに核兵器を開発しており、国際安全保障全体にとっての脅威である。曰く、ウクライナ政府は西側の手先と化しており、このままではロシアを脅かすミサイルなどがミサイル防衛(MD)システムの名目で配備される可能性がある…。

以上に基づいて、プーチンは、「特別軍事作戦」の目標を次の三点であるとしています。

第一はウクライナの「非ナチス化」であり、つまり現在の政権を体制転換するということです。第二は「ある程度の非軍事化」で、これは要するにウクライナ軍の解体を意味するものと考えられるでしょう。そして第三に、ウクライナの「中立化」、すなわちNATO非加盟などを公的に宣言させること(現在の憲法に記載されたNATO加盟方針を撤回させて2013年までの憲法と同様に中立条項を復活させること)が掲げられています。

プーチンの掲げた「大義」があまりにもツッコミどころだらけであることは明らかでしょう。

たしかにドンバスではこれまでに1万4,000人もの人命が失われていますが、民間人の犠牲は戦闘による巻き添え被害であり、ナチスがやったように絶滅収容所を作って組織的に、かつ選択的にロシア系住民を狙って虐殺をやっているわけではありません。さらにいえば、現在までに出ている死者はロシアが2014年に軍事介入に踏み切った結果なわけですから、全く論理が転倒しています(ついでに述べるとゼレンシキーはユダヤ人であって、同人を「ナチス」と呼ぶのも随分な話です)。

核開発疑惑に至ってはさらに荒唐無稽で、ウクライナが本当に大規模な開発を進めているなら国際原子力機関(IAEA)などから早い段階で疑念が出ているでしょうし、そうだとしてもまずは北朝鮮やイランの場合のように国際的な枠組みで解決の努力が図られるべきです。そうした手続きを一切抜きにしていきなり軍事行動に訴えるのはあまりにも乱暴です。

MDが攻撃ミサイルの配備拠点になるという話もロシアが長年にわたって言い続けてきた話ですが、そもそも固定式のサイトに攻撃兵器を配備するのは軍事的にあまりにも馬鹿馬鹿しいですし、ウクライナのNATO加盟や同国へのMDシステム配備など全く具体化していません。また、仮にロシアがこうした脅威を感じているのだとすれば、まずは軍備管理などの努力を通じて解決すべきであって、やはりいきなり軍事的解決に訴えてよいというものではない筈です。

以上のような杜撰な「大義」を掲げて、これは戦争ではない、自衛なのだと言い募ったところで、まず説得力を持ち得ないのは明らかでしょう。

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