小泉悠氏が解説、徹底抗戦を覚悟するウクライナの戦略

 

どこまでエスカレートするか

それでも、ロシアは当面、攻勢を継続するでしょう。

プーチンが掲げた「大義」を素直に解釈するならば、そもそも現在のゼレンシキー政権はその存在自体が許し難いものであり、戦略目標は体制転換とウクライナの武装解除、そして中立化になる筈であるからです。要はキーウを占拠してロシアの旗を立て、ゼレンシキー政権を崩壊させ、最終的には国体をロシアに都合よく変えるまでは止まらないということです。

しかも、攻めあぐねているとはいえ、ロシアの兵力・火力・航空戦力は圧倒的ですから(ウクライナ陸軍は14万5,000人もいますが、多正面での内戦作戦を強いられているために、兵力は分散されざるをえない)、どこかで持久には限界が来ます。キーウの陥落は、ロシア側の想定よりかなり遅れるとしても、時間の問題でしょう。

こうなった場合、ウクライナの選択は二つしかありません。すなわち、降伏か、ゲリラ戦による抵抗の継続です。この点は2月15日に米国際戦略研究センター(CSIS)のエミリー・ハーディングが公開したウクライナ戦争の想定シナリオ(「Scenario Analysis on a Ukrainian Insurgency」)に明確に示されています。

つまり、西側からの軍事援助が得られない場合、ウクライナはロシアによる領域占領(ドンバス全域、ドニエプル側東岸、ウクライナ全域の3シナリオが示されている)を受け入れざるをえない。一方、西側から武器、資金、訓練などを得られる場合でもウクライナ軍は早晩組織的な戦闘を諦めてゲリラ戦へと移行するほかない、というものです。

しかし、ゲリラ戦は悲惨です。毛沢東やヴォー・グエン・ザップのゲリラ戦略論からも明らかなように、全人民を巻き込み、自国の国土で長期に渡って戦うわけですから、死傷者も国土の荒廃も正規戦とは比べ物にならない規模になります。

さらにいえば、ゲリラ戦には戦闘員と非戦闘員という区別がありません。これに対して大国がどうやって対抗するかといえば、無差別的な掃討作戦です。実際、チェチェンでもシリアでも、ロシアは無差別砲爆撃、強制移住、拷問などを行ったわけで、ウクライナでも同じことが起きる可能性は決して低くないでしょう。

現状では、ロシア軍は人口密集地への攻撃をさほど激しくやっていませんが(全くやっていないというわけではない)、こう着状態が長引けば、非人道的な軍事作戦が浮上してくるのはやはり時間の問題であると思われます。ウクライナがユーゴスラヴィア化するということです。

では現実はどうかといえば、ゼレンシキー政権は国民に徹底抗戦を呼びかけており、西側はウクライナに対する軍事援助を強化しています。ハーディングがいうゲリラ戦による抵抗シナリオ、しかもウクライナ全土を巻き込むそれを想定せざるをえないでしょう。

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