小泉悠氏が解説、徹底抗戦を覚悟するウクライナの戦略

 

プーチンが繰り出す核の脅し

本当は以上で今回のインサイトのコーナーを結ぶつもりだったのですが、ここで新しいニュース(しかもとても悪いニュース)が入ってきました。

27日、ショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長を呼びつけたプーチン大統領が、「抑止戦力を戦闘当直実施の特別態勢に移行させる」ように命じたことがそれです(「Путин приказал перевести силы сдерживания в особый режим боевого дежурства」)。つまりは核部隊の警戒態勢を上げろということです。

2014年にクリミアを占拠してから1年後、ドキュメンタリー番組に出演したプーチンは、占拠作戦時に米国が介入してくるのを防ぐために「核兵器を準備態勢につける可能性があった」と発言していましたし、今回の危機にあたっても、プーチンは同じような発言を繰り返しています(マクロン大統領との会談後の記者会見や、ドネツク・ルガンスクの国家承認後のビデオメッセージ、開戦のビデオメッセージ等)。

言っていることは毎回同じで、要はロシアの軍事力行使を西側が実力で阻止しようとすれば核戦争になるんだぞ、ということです。このように、大国の参戦阻止のために核使用の脅しをかけたり、実際に限定核使用に及ぶという思想は、エスカレーション抑止(デエスカラーツィヤ)としてある程度体系化されているということは第160号で紹介しました(「西側との対話決裂 考えられるオプション ほか」)。

しかし、今回のプーチンの発言がちょっと異様なのは、西側による経済制裁をその理由としている点でしょう。こんなことで一々核の脅しを振りかざすのでは世界はしょっちゅう核戦争の瀬戸際に立っていなければなりませんし、結果的にロシアの核抑止力の信憑性だって下がる筈です。

どうも今回のプーチンは、自分で自分の首を絞めているという印象が拭えません。

(メルマガ『小泉悠と読む軍事大国ロシアの世界戦略』2022年2月28日号より一部抜粋。全文はメルマガ『小泉悠と読む軍事大国ロシアの世界戦略』を購読するとお読みいただけます)

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image by: Drop of Light / Shutterstock.com

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千葉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修了(政治学修士)。外務省国際情報統括官組織で専門分析員、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所(IMEMO RAN)客員研究員、公益財団法人未来工学研究所特別研究員などを務めたのち、現在は東京大学先端科学技術研究センター特任助教。

 

ロシアの軍事や安全保障についてのウォッチを続けてきました。ここでは私の専門分野を中心に、ロシアという一見わかりにくい国を読み解くヒントを提供していきたいと思っています。

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