ウクライナへの侵攻を開始するや、西側諸国に対する警告として「核」の存在に言及したロシアのプーチン大統領。「暴走」とも言えるその言動について、病気を疑う声が上がっています。メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さんは、過去の大国の権力者たちの病気について記述した書籍を紹介。核保有国の最高権力者が心身に異常を来し「暴走」した際には阻止する方策が必要で、「安全装置」は中ロのような独裁国家であっても制定されるべきものと訴えています。
歴史的にプーチン病気説を眺めると
ロシアのプーチン大統領がロシア軍に核戦力を含む特別警戒態勢を発令したことについて、病気説が飛び交っています。
2020年11月には、英国の大衆紙サンが「プーチンはパーキンソン病のため、2021年初めに辞任するだろう」と報じました。その報道のようには進まなかったのですが、今回の核兵器への言及によってパーキンソン病による過去への執着や判断力の低下が原因だとか、認知症によるものだという言説が再び飛び交っています。
いずれも確たる根拠があるものではないのですが、過去の歴史に照らして、特に核兵器に関する国家元首の暴走を食い止める方策を確立する必要性が生まれていることは間違いないでしょう。
私の手もとに『現代史を支配する病人たち』(新潮社、P・アコス、P・レンシュニック)という本があります。著者のアコスはフランスの『レクスプレス』誌の医療担当記者を務めたジャーナリストで作家、レンシュニックは『医学と衛生』誌の主筆、ジュネーブ大学医学部講師などを歴任した内科専門医です。
訳者の須加葉子氏はあとがきに、「権力者というものに対する一般のイメージを打ち砕き、世界政治の動きを医学の視点からとらえることによって、現代史に従来と全く異なった側面から肉迫し、さらに法医学的な社会問題をも提起した」と記しています。
この本には、ルーズベルトの「ヤルタの空に描くアルヴァレス病の幻想」から毛沢東の「革命の神様を待ち受ける老人性痴呆」まで、27人の最高権力者が俎上に載せられています。アルヴァレス病とは脳の小動脈の破裂によって生じ、意識がもうろうとするなどの症状が出ることで知られています。
今回のプーチン大統領と重なるのはヒトラーのケースで、「第三帝国とともに崩壊するパーキンソン病の肉体」という表題になっており、なにやら意味深でもあります。
プーチン大統領がKGB(国家保安委員会)の将校として活動したソ連の指導者については、レーニンの脳軟化症、スターリンの「凍った血」(重い動脈硬化症によって衝動の抑制が効かなくなる症状)、フルシチョフの「躁鬱病」、ブレジネフの「人工心臓疑惑」が取り上げられています。このような最高権力者の病気が世界を破滅に導きかねない恐怖を、いま世界はプーチン大統領の言動によって突きつけられています。
最高権力者の暴走を阻止するには、第一線部隊の指揮官が不当と思われる大統領命令を拒否できるようにした米国の例などが参考になると思われます。近い将来、ロシアや中国でもそのような「安全装置」が制定されることを願わずにはいられません。
米国の例については、機会を見て西恭之さん(静岡県立大学特任准教授)に解説してもらおうと思います。(小川和久)
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