2月25日にスタートした「楽天NFT」。その仕組みは、本来のNFT(非代替性トークン)とは大きな違いがあるようです。どこが異なり、どうしてそうなってしまったか解説した記事をメルマガ『週刊 Life is beautiful』著者で「Windows95を設計した日本人」として知られる世界的エンジニアの中島聡さんがわかりやすく紹介。中でも最も大切な「特定の企業に支配されない」部分が欠けていることの意味を伝え、ブロックチェーンよりも安価に何モノにも支配されない技術が誕生すれば、「お墓」より価値がある「永遠のブログ」ができると綴っています。
プロフィール:中島聡(なかじま・さとし)
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。
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私の目に止まった記事
楽天がNFTの発行ビジネスをスタートしたものの、本来のNFTとは大きく異なる「なんちゃってNFT」だと指摘する記事です。詳しくは記事そのものを読んでいただくのが一番ですが、楽天NFTには、
- 暗号資産を使わない
- データは楽天が管理するプライベート・ブロックチェーン上に格納される
- 管理者が商品をコントロールできる(違法性のある商品を消せる)
という特徴があり、日本の法律や商習慣に従えば仕方がない部分があるとはいえ、NFT本来の、特定の企業に支配されないという最も大切な部分が欠けていると指摘しています。
ちなみに、先週になってBLOGOSというニュース・サービスが終了することが発表されました( BLOGOS サービス終了のお知らせ )。私のブログもいくつか転載されていますが、このサービス終了とともにネット上から消えることになります。
これはつまり、それらの記事へのリンクが全て「リンク切れ」になることを意味していますが、これこそが「特定の企業に支配される」欠点なのです。
通常のNFTであれば、一度購入したNFTは、購入した人が明示的に手放さない限りその人のものですが、楽天NFTの場合、楽天が「NFT事業から撤退する」と決めた瞬間に、世の中から消えてしまいます。
以前にもこのメルマガで指摘したと思いますが、「プライベート・ブロックチェーン」には何の意味もありません。プライベートなものであれば、通常のデータベースを使うべきなのです。
楽天の技術者もそれぐらいは100%承知だと思いますが、それでも「プライベート・ブロックチェーン」を使って来たのは、「通常のデータベース上にデータを置いてはNFTとは呼べない」という「大人の事情」があったのだと想像出来ます。
しかし、残念ながら、そんな方便は通用せず、世の中の人たちに「プライベート・ブロックチェーン上のデータをNFTとは呼べない」と鋭く指摘されてしまっているのです。
そう考えると、私のブログはTypepadに私がお金を支払うのをストップすれば消えてしまうし、無料サービスであるnote上の記事も、note株式会社が何らかの事情で消滅してしまえば、ネット上から消えてしまいます。
今のブロックチェーンほどコストがかからず、かつ、大量のデータを特定の企業に依存せずに保持するのに適した技術が誕生すれば、その上に「未来永劫アクセス可能なブログ」を構築出来るわけで、それは、人類全体にとって「お墓」なんかよりもずっと価値の高いものであるように思えます。
(ガス代を大幅に低減する)Ethereum 2.0がその答えだとは期待していませんが、そのさらに先にあるものが、ひょっとするとこの問題を解決してくれる可能性はあると思います。
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image by:yu_photo/Shutterstock.com