ロシアの「北海道侵略」はありうるのか?ウクライナの“二の舞い”説を検証

 

現在、ウクライナでの戦争と、日本との関係悪化を受けた中では、メドベージェフは、ロシア国内のSNSで、

北方領土をめぐる日露間の協議と交渉は「常に儀式的な性質」を帯びていた。

ロシアと日本が北方領土問題に関してコンセンサスを見つけることは決してないであろうという見通しについて、両国はこれを理解していた。

などと語っています。ただ、この発言については、現時点での「凍えきった」日ロ関係から「逆算してモノを言っている」という点には注意が必要です。この人も、そして親玉のプーチンも含めて、ロシアの政治家の発言というのは、冒頭に申し上げたように、発言そのものが100%外交の「武器」であり、それも相手の反応を見るために「使ってみる」という態度で投げてくるものと理解すべきです。

ですから、このメドベージェフ発言をもって「南千島の奪還は100%なくなった」などと悲観する必要はありません。日本は、淡々と主張を続ければ良いと思います。

淡々と、というのは2つの意味合いがあります。1つは、今回のような緊張と関係の冷却は過去にもあったからです。「ミグ亡命事件」「200カイリ問題」「暴挙発言問題」など、関係の冷え切ったケースはいくらでもあり、それでも日ソ交渉、日ロ交渉は継続してきたからです。その延長で、現時点での交渉も恐れることなく、また居丈高になることもなく、実務的に進めるべきと思われます。

もう1つは、北洋漁業を継続する限りは、ロシアとの関係は切れないということがあります。まず、多くの海域は「南千島の4島」からの200カイリ圏内であり、同時に日本の200カイリ内(EEZ)も重なってきます。ですから、相互に協定を結ぶことで安全な操業を確保しなくてはなりません。加えて、魚の中にはロシアの河川で生まれたとか、日本の河川で生まれた場合もあり、そうした魚の権利を確定する必要もあります。

更に言えば、日ロ両国が相談なしに勝手に操業を拡大しては、水産資源の管理ができなくなるという問題もあります。ウクライナ情勢と経済制裁という問題を抱えつつも、日本とロシアは交渉を繰り返して、関係を継続して行かなくてはならないのです。

では、日本の北方外交に関しての今後の展望ですが、2つの問題があると思っています。

まず領土問題ですが、相当に時間がかかると思います。ですが、仮にロシアの経済が通貨下落と国家債務によって破綻してゆくようですと、どこかの時点でエリツイン時代のように、交渉のチャンスは巡ってくるかもしれません。淡々と、ポーカーフェイスで、そのタイミングを待つことが必要です。今はその時ではありませんが、とにかく政治的な「欲を出す」のではなく、我慢比べという感じです。

もう一つは、別のプレーヤーの存在です。それは意外なことに中国です。

中国とロシアは、清朝と帝政ロシアの時代からシベリア東部をめぐって激しい争いを続けてきました。問題は、中国東北部(内満州)の東側の広大な地域(外満州)の帰属問題です。現在の東シベリアの沿海地方(沿海州)、アムール州、ユダヤ自治州、およびハバロフスク地方南部の全体です。

この外満州については、清朝の勢力が強大であった康熙帝の時代には、ネルチンスク条約(1689年)によって中国領になりました。ところが、その後の清朝は徐々に衰退して列強に押されるようになり、その結果としてこの外満州地域を維持することはできなくなりました。

そこで、咸豊帝の時代である1858年にはアイグン条約でアムール川以北が、更に1860年の北京条約ではウスリー川以東が、清からロシアに割譲されてしまいます。結果として、外満洲はすべてロシアの領土となったのでした。

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