ロシアの「北海道侵略」はありうるのか?ウクライナの“二の舞い”説を検証

 

ロシアはここに軍事要塞でもあるウラジオストック港などを設営しており、外満洲はロシアのアジア進出の重要な拠点となって行ったのでした。ところが、1つだけ例外がありました。現在の黒龍江省黒河市から見てアムール川の対岸一帯にある清朝居民の居留県であった「江東六十四屯」という地域は、法的にはロシア領でも、清国が管理し清国人が居住していたのです。

ところが、この「江東六十四屯」に関しては、義和団の乱がロシアとのトラブルを起こした報復として、1900年にロシアが襲撃して清国住民を大量虐殺するという事件が起きています。虐殺によって「江東六十四屯」は潰されて清国の実効支配は排除されました。当時のこのロシアの激しい手口に、日本は大変なショックを受けており、ロシアの南下には国運を賭けてでも対抗しなくてはという決意の原因になったとも言われています。

さて、この「江東六十四屯」問題ですが、近代の中国は意外とクールな対応をしました。この地域の国境線については、中ソ紛争を通じて砲火を交えるなど「こじれて」いたのですが、2004年に当時の江沢民政権とプーチン政権は、国境線の確定を行ったのでした。

具体的には「江東六十四屯」はロシア領のままで一切話題にせず、アムール川とウスリー川の合流点にある小さな島、(タラバーロフ島、中国名は銀龍島)を中国領土に、大きな大ウスリー島(中国名は黒瞎子島)を半分に割ってそこに国境線を設けるという「足して2で割る」合意をしたのでした。

当時の私は、中国もロシアも「大人だ」と思ったのですが、そこには裏がありました。江沢民+朱鎔基(実際にサインしたのは、胡錦濤+温家宝)がここまで譲歩したのは、ロシアの石油と天然ガスが経済成長には必要であり、そのために大きな譲歩を決断したのでした。

しかし、美しく平和的なこの合意は、100%確固たるものかというと、どうも怪しいのです。まず「江東六十四屯」については、中国の歴史では「特に触れることのない黒歴史」になっている一方で、台湾では「中華民国の未回収の領土」として教えていたりします。

そんな中で、中国が国力を蓄える中で、この「江東六十四屯」という屈辱の歴史をひっくり返したいという衝動が少しずつ出てきてもおかしくありません。何しろ、ロシア軍により、「江東六十四屯」の住民(2万5,000人?)が殺害されて、その遺体がアムール川に投棄されたというのです。

更に、石油と天然ガスの需要ですが、現在の中国は原子力のシェア増大によるエネルギー・ミックスを強力に推進しています。ですから、この2004年のような「屈辱的な合意」を跳ね返す条件を備えているとも言えます。

そんな中で、一部の文献には、「江東六十四屯」どころか全ての「外満州」つまり、ウラジオを含む沿海州からアムグン川に至る広大な地域を「中国は回復すべき」という計画が語られているという報道もあります。

仮にこの問題が浮上しますと、日本の北方外交には中国が加わってくる可能性があるわけです。これは歴史的には全く根拠のない話ですが、中国サイドの主張の中には「樺太島も外満州」というこれまた根拠のないオカルト主張があるわけで、これは大変に気になります。

このことを踏まえると、天然ガスの「サハリン2」権益を日本が放棄してしまうと、そこに中国が入ってくるという可能性は、満更ゼロではないということになります。また、仮に中国がサハリンでの領有権に手を出してくるようだと、ロシアとしては簡単に「サハリン2」の権益を中国に奪われるという警戒をするかもしれません。

いずれにしても、15年とか20年といった長期レンジで考えると、この「外満州への中国進出」という動きは具体化する可能性があります。もっとも、そこは中国ですから、昔や今のロシアのように乱暴な方法論ではなく、住民をどんどん送り込んで中国化するという手段を絡めてくるわけです。その点では、沿海州における中国系の人口は増加しており、既に布石は十分に打たれていると考えるべきでしょう。

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