【イラク戦争~イスラム国へ】ぶれる米国軍事政策が生み出した脅威

冷泉彰彦© luisrsphoto - Fotolia.com
 

ISIL誕生に至った経緯をアメリカは反省しているのか?

『冷泉彰彦のプリンストン通信』第48号

読者の方から、Q&Aの欄に次のような質問をいただきました。本稿の時点では、依然として日本人人質事件は進行中であり、ISILの問題は日本でも大きな関心を呼んでいると思います。そんな中で、この質問は非常に重要な論点と思いましたので、この「通信」の欄でお話することにしました。

いただいた質問は、次のようなものです。

「連日のISISの報道を見て少し疑問に思ったことがございます。ISISの「建国」の経緯を見ると、アメリカの対イスラム戦争が大きな要因となっているように感じられます。確かにISISの暴挙は目に余るものがありますが、アメリカの世論では「ISISを生んでしまったこと」を反省する声は一般的ではないのでしょうか。素人的な発想で申し訳ないのですが、自らの戦争が非人道的な組織を生んでしまったことを反省せず、その組織をまた軍事力で壊滅させてたとしても、あたかも北方謙三が『水滸伝』で描いた梁山泊軍のように、完全なる根絶は不可能であり、同じようなテロが延々と続くことになるような危惧を感じます。」

誠におっしゃる通りであると思います。ISILというグループは、例えばその頭領というべき、アル・バグダディの辿ってきた軌跡において正にアメリカの軍事作戦がもたらした「陰画」であり「因果」であるような性格を持っています。

一つにはブッシュのイラク戦争という問題があります。2003年に始まったイラク戦争では、当初はサダム・フセイン政権を打倒してその大量破壊兵器の脅威を除去する、それが戦争目的であるとされました。空爆に続く短期間の地上戦でバグダッドを陥落させて、サダムを捕縛すれば戦争は片づき、脅威は消滅する、そのようなイメージです。

事実、3月に開始された戦闘は5月に入ると「戦果」は具体的なものとなり、ブッシュ大統領は太平洋上の空母で「着艦パフォーマンス」などという派手なことをやった上で、事実上の勝利宣言を行ったのでした。

ところが、実際はそう簡単に物事は進みませんでした。サダムの残党というべき、旧共和国防衛軍は地下に潜ってゲリラ戦を進め、その中の先鋭的な部分は、アル・ザカルウィという頭領の指導の下で、様々なテロ活動を行うに至っています。

問題は、イラクの新体制作りにおいて、クルド人とシーア派の連合政権が正当とされる中、スンニー派は完全に「締め出し」を食らった格好になったということにあります。1991年の湾岸戦争当時には、先代のジョージ・H・W・ブッシュが「バグダッドに進軍してサダムの政権を瓦解させては、イラクは3つのグループが互いに抗争する中で不安定に陥る」という判断から、サダムの政権を「温存」したわけですが、その際の予言が当たってしまったわけです。

もう一つは、イラク戦争の過程でアメリカをはじめとする多国籍軍と、例えばアル・ザカルウィのような「地下に潜ったスンニー派」との間で、血みどろの「果たし合い」が続いたという問題です。ゲリラの方は、爆弾テロを多角的に繰り出してきて、米英の派遣軍を揺さぶりました。

パトロール中の道路脇、不審な車の突入による自爆テロなどといった手口で、多くの米英の兵士が殺傷され、また生き残った兵士の多くは深刻なPTSDを抱えるに至っています。一方で、米英軍はこうした爆弾テロを抑止するためということで、戦術的には「敵の拠点」を猛爆する、あるいは凄惨な市街戦を仕掛けて面の制圧を図るといった攻撃を繰り返しました。

三番目としては、そうした「どちらかと言えば正攻法」の攻撃では十分な効果が得られない一方で、味方の損害は甚大であり、そうした「守勢」を挽回するために、そして「正攻法では勝てない以上、何とかして巧妙な作戦を」という思いから、米軍は「限りなくグレーな戦闘」へとのめり込んで行ったのです。

要するに人類の常識や国際法の「すき間」をかいくぐったような作戦で、自国の兵士の犠牲を抑え、敵に大きな損害を与えようというのです。それは「電子戦」と言うべきものです。逮捕拘束した敵兵の告白による諜報、盗聴行為の結果として得られた盗聴、そして偵察衛星が察知した情報を総合して、「その場所に敵がいる」という判断ができれば「無人機(ドローン)」を繰り出して、ピンポイントで殺害を行うという方法です。

この新しい「電子戦」というのは、人道的に大きな問題をはらんでいます。一つには、捕虜から情報を得るために拷問行為が日常化していたということであり、もう一つはドローンの使用によって国際法上の規制を逃れるということであり、更には「ピンポイント」攻撃の結果として誤爆による民間人犠牲が不可避という問題です。

こうした戦闘に進む段階では、既に米軍とスンニー派というのは「お互い様」になっており、お互いに「泥沼の中で手段を選ばぬ抗争にのめり込んで行って」いたのは事実かもしれません。ですが、明らかに国際法上の疑念があり、またどう考えても人道上認められない拷問行為が横行し、誤爆による民間人犠牲が不可避となれば、これは「やられた側」としては「どっちもどっち」という話にはなりません。

イラクで一旦は捕縛されたものの、米軍の収容所における過酷な環境に身を置くことによって、自身の中に憎悪を蓄積して行ったのが、アル・バグダディのある種の原点であるのならば、ISILという怪物を生んだ一方の責任がアメリカにあるということは否定できません。

では、アメリカにはそのような「反省の論」はあるのでしょうか?

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