ウクライナ紛争でも証明か。戦争は「英国が味方に付いた方が勝つ」という不敗神話

2022.04.19
 

ロンドン市内も一見、警戒態勢は緩く、いつでも簡単にテロを起こせそうな感じだった。これは、フランスのパリ市内やシャルル・ド・ゴール空港には多数の警官や武装兵が立ち、警戒しているということと、大きな違いだった。だが、テロが頻発するフランス、ベルギーなど欧州大陸に比べれば、発生件数は格段に少ない。英国ではテロはほとんど起きないと言い切っていいレベルであった。

なぜ、無防備で隙だらけのように見えながら、テロが起きないのか。それは、英国の警察・情報機関が、国内外に細かい網の目のような情報網を張り巡らせ、少しでも不穏な動きをする人物を発見すれば、即座に監視し、逮捕できる体制が確立されていたからだ。

具体的には、地方自治体、刑務所、保護観察、福祉部門の職員、学校や大学の教員、NHS(国家医療制度)の医師、看護士は、過激化の兆候を見つけたら当局に報告することが義務付けられていた。当局の要注意リストには約3,000人が掲載され、別の300人を監視下に置いているとされていた。毎月、テロリストの疑いありとして逮捕される人数は大変な数に及んだ。要するに、英国のテロ対策とは、警察と情報機関が長年にわたって作り上げてきた情報網・監視体制をフルに使って、テロを水際で防ぐということである。

日本には「スパイ防止法」がない。テロ対策が脆弱であり、国内に外国のスパイが好きなように出入りし自由に行動できる「スパイ天国」だともいわれてきた。さらにいえば、日本は英国MI6や米国CIAのような「対外情報機関」が存在しない。英国との協力は、このような日本の安全保障上の弱点を補完するものとなり得ると考える。

参考資料

  • 秋元千明(2021)『復活!日英同盟:インド太平洋時代の幕開け』CCCメディアハウス

image by: 首相官邸

上久保誠人

プロフィール:上久保誠人(かみくぼ・まさと)立命館大学政策科学部教授。1968年愛媛県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、伊藤忠商事勤務を経て、英国ウォーリック大学大学院政治・国際学研究科博士課程修了。Ph.D(政治学・国際学、ウォーリック大学)。主な業績は、『逆説の地政学』(晃洋書房)。

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