小泉悠氏がシミュレーション。ロシアの北海道侵攻はあり得るのか?

 

10年後は?

以上のように、ロシアが今すぐに北海道に上陸してくるのはどう考えても無理でしょう。上陸させる兵力も揚陸艦も足りない、それを援護する海空戦力も足りないわけで、目の前の脅威としてロシアを扱うのはどう考えても無理がある。

では、この戦争が(どんな形でかはまだ見通し難いですが)一段落ついて、ロシアが戦力の再編成を図り、極東に一定の兵力を集めてきた場合はどうでしょうか。例えば10年後の2032年を想定して思考実験を行ってみたいと思います。

大雑把な前提は次のとおりです。

  • ロシアの経済は停滞するが崩壊しない。豊富な天然資源は一定の外貨収入をロシアにもたらし続け、おおむね現在と同程度のGDPを維持できる
  • ウクライナとの戦争で被った壊滅的なダメージを回復するため、ロシアは10年にわたってGDPの5%程度を国防費に支出し続ける(現在は対GDP比2.5%内外で年間3兆5,000億ルーブル程度)
  • これによってロシア軍の兵力は現在の実勢90万人程度から1.5倍増の135万人程度となり、極東の海空戦力も一定の増勢と近代化を達成する

この場合、ロシアの軍事負担は相当に重くなるものの、北海道侵攻作戦を成功させる見込みは考えられないではない。具体的なシナリオは様々でしょうが、例えば一例としてこんな風に考えてみましょう。

2032年X月X日(往時の第三次世界大戦シミュレーションを意識してみました)、ロシアは大規模なサイバー攻撃によって北海道電力と東北電力の電力グリッドをダウンさせ、日本北部の社会インフラが機能不全に陥る。これと同時に特殊作戦部隊が離島の自衛隊レーダーサイトを急襲し、緊急展開した移動警戒隊も襲撃を受ける上に、激しい電子スペクトラム戦が展開される。

こうした中で戦略爆撃機と潜水艦が集中的な巡航ミサイル攻撃を行って千歳と三沢を機能不全に陥れ、日本北部のエアカバーが消滅。さらに進出してきた水上部隊と戦術航空機による第二波ミサイル攻撃で道内の自衛隊基地や陸上自衛隊の集結拠点が壊滅し、海上自衛隊も大損害を受ける。

そのうえで、サハリンや北方領土に集中していたロシア軍の空挺部隊がヘリボーンで橋頭堡を確保し、ロシア中からかき集められた揚陸艦(この頃には23900型や11711型といった格段に大型の両用戦艦艇も揃っているでしょう)があとづめの重戦力を揚陸する。沿岸から一定の距離を制圧したロシアはさらに民間船舶も動員してさらなる増援を送り込む…。

まぁウクライナでの戦争を見るに、ロシアがこれだけ手際よくやれるかどうかは怪しいところもありますし、米軍の介入をどうやって抑止するのかという問題は残ります。しかし、仮にロシアが本腰を入れて北海道侵攻を準備するなら、中期的にはもしかして、という程度のことは考えられるかもしれません。

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