小泉悠氏がシミュレーション。ロシアの北海道侵攻はあり得るのか?

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プーチン大統領のウクライナ侵略を受け、周辺各国でにわかに高まったロシア脅威論。日本でも露軍の北海道侵攻を懸念する声が各所で上がっていますが、そのような事態は起こりうるものなのでしょうか。今回のメルマガ『小泉悠と読む軍事大国ロシアの世界戦略』ではロシアの軍事・安全保障政策が専門の軍事評論家・小泉悠さんが、現状では「想像し難い」としてそう判断する理由を解説。さらに10年後に起きうる可能性についてもシミュレーションしています。

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※ 本記事は有料メルマガ『小泉悠と読む軍事大国ロシアの世界戦略』2022年4月25日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール小泉悠こいずみゆう
千葉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修了(政治学修士)。外務省国際情報統括官組織で専門分析員、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所(IMEMO RAN)客員研究員、公益財団法人未来工学研究所特別研究員などを務めたのち、現在は東京大学先端科学技術研究センター特任助教。

ロシアは日本に侵攻するか

「意外」な対露脅威認識の高まり

最近、ちょっと意外だったのは、今回の戦争で「ロシアは日本も狙っているのではないか」という懸念の声が意外と強いということです。「意外」と書いたのは、いちロシア軍事屋としての自分はこういうことをあまり真剣に懸念してこなかったからです。

たしかにロシアがウクライナに侵攻したのはショックなことではありますし、そう考えてみると日本もロシアの隣国ではあります。最近、フィンランドとスウェーデンがNATO加盟の動きを本格化させているのも、最大の(そしてほとんど唯一の)動機は対露抑止でしょう。

また、近年では野党「公正ロシア」のミロノフ党首が「北海道の全権利はロシアにある」などと発言したことも波紋を広げました。J-CASTニュースの記事はその背景までよく掘り下げたものなので一読をお勧めします。

露の野党・公正ロシアのセルゲイ・ミロノフ党首「北海道の全権はロシアにある」と主張

しかし、冷静に考えてみれば、ロシアがウクライナに対するように日本に軍事侵攻してくることはちょっと想像し難い。日本側は北海道に2個師団(機甲師団である第7師団を含む)と2個旅団の計4個兵団を配備しており、これを打破するのは相当にホネでしょう。

しかも、ロシアが極東に配備している地上兵力は8万人ほどに過ぎず(防衛白書による)、このうちのかなりの兵力をウクライナに投入しているらしいことは第168号で既に紹介したとおりです。

ウクライナ戦争三週間 核エスカレーションと北方領土

特に痛いのはロシアが太平洋艦隊の二つの海軍歩兵旅団(ウラジオストクの第155海軍歩兵旅団とカムチャッカの第40海軍歩兵旅団)を双方ともウクライナに投入してしまっていることです。

揚陸戦力も全く足りていません。太平洋艦隊が保有する揚陸艦は1171型1隻と775型3隻の計4隻に過ぎず、1個旅団を上陸させるにも足りないでしょう。さらに上陸作戦を行うには日米の海空戦力を制圧して上陸地点を確保しなければなりませんが、これもロシアが配備している既存の海空戦力では難しいと思われます(何しろ世界最強の米軍と世界有数の戦力を持つ海空自衛隊を打倒せねばならない)。

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