しかしこの不法移民の問題、キーワードを理解しないと米国人のバイデン政権に対する不満や政治に対する心象風景は見えません。再度、解説しましょう。
【サンクチュアリ・シティー(聖域都市)】
全米各地にある不法移民を保護する都市です。ニューヨーク、ロサンゼルスやサンディエゴなど300以上あります。政府からの不法移民に関する調査への協力を拒否しています。
「不法滞在であっても基本的人権を侵してはならない」という名のもとに、低所得者向けの医療保険、フードスタンプ(食料費補助)、住宅補助、児童福祉、合法移民向けの教育補助、職業訓練、運転免許証の交付までもが認められている都市もあるそうです。市民の税金でです。
それは不法移民が集まりますよね。当時トランプ大統領は、そういった都市に不法移民を取り締まらせる大統領令に署名し、それらの市長と激しく対立していました。
【キャッチ・アンド・リリース】
もともと釣りの用語です。捕まえた魚を逃がしてやる事です。
同じ事が米国国境で起こっていたのです。例えば中南米からの不法移民が密入国しようとして国境警備隊に捕まったとします。国外に追放されるのが普通だと思うでしょう。しかし捕まった人がその場で「難民申請」することにより入国することを許可されていたのです。
実際、不法移民の多くは「難民」に該当しない人が多いのです。しかしキャッチ・アンド・リリース政策では不法移民を捕まえても難民申請の文言を言われたら入国を認めて「X月X日に米国のXX裁判所に来なさい。そこで難民の資格があるかどうかを審査するから」といって釈放せざるをえなかったのです。
そしてその不法移民が定められた日に裁判所に来ることはまずありません。そのまま米国内に消えるのです。
2015年これに真っ向から反論する形で大統領選に登場したのがトランプだったのです。
「合法移民はよいが、不法移民はダメだ。移民したいなら正式な書類を提出しろ。また難民申請は正式な国境検問所に来てしろ。密入国しようとして、捕まったら『私は難民申請します』なんてのはダメだ。それを認めているから犯罪者、レイプ犯や麻薬の密売業者まで不法入国しているのだ」というのが彼の主張でした。
トランプ大統領が人格的に高潔とは言えないことは誰でも知っています。しかし、この主張には大きな説得力があったのです。
またトランプ2期目の大統領選、民主党の候補者10名以上を集めたTV討論会がありました。
司会者が「国境を越えて侵入しようとしている人は不法だと思いますか?」との質問に同意して手を挙げた民主党の大統領候補者は皆無でした。それら侵入者は「不法移民(Illegal Immigrant)」ではなく「滞在許可証をもたい移民(Undocumented Immigrant)」と呼ぶべきだというのです。
それを見た瞬間「やはりトランプに投票するしかないか」と思ったアメリカ人、何百万人もいたと思います。「滞在許可証をもたない移民」に寛容なら世界中の貧しい国から密入国者がくるとすぐにわかるからです。
繰り返しますが、なぜ日本の報道機関は、こういった真っ当な政策論争を報道しないのかという怒りと疑問があります。
それを理解せずに米国選挙や政治の流れは分かりません。5月23日に廃止されるタイトル42、その後に起こる混乱への報道に注目です。
PS
もう一つ、この件を通じて気が付いた事があります。日本と米国という交流が多く情報交換されている国の間でさえ「情報統制ができる」という事です。白黒(ヒーローと悪役)を明確につける形で報道する方が煽情的になり視聴率がとれるのでしょう。(この記事はメルマガ『在米14年&起業家兼大学教授・大澤裕の『なぜか日本で報道されない海外の怖い報道』ポイント解説』5月15日号の一部抜粋です。この続きをお読みになりたい方はご登録ください。初月無料です)
社会の分断化を推し進める「バランスを欠いた報道」を見極めるために
メルマガ『在米14年&起業家兼大学教授・大澤裕の『なぜか日本で報道されない海外の怖い報道』ポイント解説』 では、在米14年の経験と起業家としての視線、そして大学教授という立場から、世界で起きているさまざまなニュースを多角的な視点で分析。そして各種マスコミによる「印象操作」に惑わされないためのポイントを解説しています。5月中であれば、5月配信分のメルマガ全てが「初月無料」でお読みいただけます。この機会にぜひご登録ください。
月額:¥330(税込)/月
発行日:毎週 日曜日(年末年始を除く)
形式:PC・携帯向け/テキスト・HTML形式
日本のマスコミが伝えない海外報道の読み解き方とポイントを解説する大学教授・大澤裕さん新創刊メルマガの詳細・ご登録はコチラから
人気メルマガ「在米14年&起業家兼大学教
過去に配信されたバックナンバーのご紹介と、まぐまぐスタッフがオススメポイントをいくつかご紹介いたします。バックナンバーは月単位で購入できます。
▼2022年4月
・ウクライナ比較:台湾有事(4/24)
・世界で人気の日本のリアリティショー番組(4/17)
・中国の発展途上国への借款支配(4/10)
・ウクライナ難民に対する日本政府の無責任発言(4/3)
ウクライナ侵略が現実のものとなってしまった今、もはやいつ勃発しても不思議ではないと言われる台湾有事が論じられた4/24号では、元米軍司令官の冷静な分析や中国人大学教授の不敵な発言等を引きながら、日本における当問題の真剣な議論の必要性を訴えた大澤先生。4/3号では、「日本もウクライナ難民受け入れに合意した」とするニューヨーク・タイムズの記事を引きつつ、受け入れ不能な難民支援を約束した岸田政権の姿勢を批判しています。
▼2022年3月
・ウクライナ戦争の出口、新しい世界秩序(3/27)
・岸田総理インド訪問にみる海外報道との乖離(3/20)
・日韓関係の転機となるか、韓国新大統領(3/13)
・ウクライナ戦争の行方、カギを握るトルコ(3/6)
ウクライナ紛争後の「新しい世界秩序」はどの国が作ることになるのか?日本の安全保障にも大きく関わってくる、そんなテーマが扱われた3/27号。プーチン大統領に対して大きな発言権を持つ国家指導者の実名を上げ、戦争の出口と今後の展開を大澤先生が論じています。3/13号では大接戦の末誕生した韓国の新大統領が、国交正常化以来最悪となっている日韓関係をどのような方向に導くのかを考察。その上で岸田総理の手腕への期待を記しています。
▼2022年2月
・プーチン大統領の目的は何か(2/27)
・スパイ防止法 中国と日本(2/20)
・武器輸出を増大させる韓国(レッテルの怖さ)(2/13)
・ウクライナ危機の本質、ブタペスト覚書(2/6)
2/22号のテーマは、主要国の中で日本だけが未制定かつ現実を見据えた議論すらなされない「スパイ防止法」。我が国においてはいくらスパイを逮捕しても無駄となる現実や、スパイ容疑で拘束した邦人を獄中死させている中国が、日本国内で常識を超えた情報収集活動を行なっている事実を紹介しています。2/6号では、ウクライナ危機の本質をニューヨークタイムズの記事を引きながら詳細に解説。さらに危機に至った歴史的経緯を伝えない報道機関を批判的に記しています。
▼2022年1月
・自作自演の罠にはまったプーチン(1/30)
・日本に入る中国の電気自動車(1/23)
・カンボジアのインターネットゲートウエイ法(1/16)
・中国からのメッセージ(1/9)
・如何にして海外報道に疑問をもったか?(1/2)
このままでは近い将来、日本の電気自動車市場を中国が席巻するこ
▼2021年12月
・原子力潜水艦を渇望する韓国(12/26)
・「中国式民主主義」に対する各国報道(12/19)
・ビッグデータの覇権を狙う中国(12/12)
・中国政府とオリンピックを揺るがすテニス選手の行方不明(12
日本はおろか米国をもはるかにしのぐ、中国の「ビッグデータ収集
▼2021年11月
・軍事的な結びつきが強まる日本とベトナム(11/28)
・中国政府を揺るがすテニス選手の性的暴行告発・消息不明(11
・「日本は信頼できない」韓国大統領候補(11/14)
・日本の戦略を高く評価するシンガポール新聞(11/7)
11/28号では、日本とベトナムの安全保障協力を詳しく解説。
11/7号では「最近、日本は目立たないながらも主導的な役割を
▼2021年10月
・世界EV電気自動車バッテリー覇権戦争(10/31)
・今もNYタイムズで追悼される従軍慰安婦(10/24)
・海外からの日本への投資、北朝鮮に次ぐ最下位(10/17)
・日本が核武装を決断する日(10/10)
・中国の情報操作に対抗するシンガポール(10/3)
▼2021年9月
・オーカス(AUKUS)の各国反応(9/26)
・米国の国境に殺到するハイチ人の悲劇(9/19)
・鳩山由紀夫氏に問う(9/12)
・中国で日本テーマパークが閉鎖(9/5)
▼2021年8月
・韓国 従軍慰安婦記念式典(8/29)
・アフガンに入り込む中国の戦略(8/22)
・仮想通貨 恐ろしい騙しの手口(8/15)
・暗号通貨の未来~シンガポールの取り組み~(8/8)
・忍び寄るインフレ、バイデンフレーションの恐怖(8/1)
▼2021年7月
・オリンピック開会式、NYタイムズ厳しい報道(7/25)
・グーグルが国有化される日(7/18)
・無観客オリンピックの報道(7/11)
・タイトル42が廃止される時(7/4)
▼2021年6月
・海外のオリンピック報道は?(6/27)
・テキサス州がトランプの壁を独自建設へ(6/20)
・今、香港に報道の自由はあるか?(6/13)
・中国の台湾侵攻に関する広報・情報戦(6/6)
▼2021年5月
・カマラ・ハリス副大統領の沈黙(5/30)
・海外は従軍慰安婦問題をどう報道しているのか?(5/23)
image by: Vic Hinterlang / Shutterstock.com