すでに台湾有事は始まっている。ウクライナ情勢の陰で進む沖縄・与那国「もはや戦時下」の現状

2022.05.18
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北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長が15日、「ウクライナはこの戦争に勝利できる」と述べるなど、ロシアの劣勢が顕著に叫ばれるようになってきました。この先も長引くことが懸念されるウクライナ情勢、その様子を固唾を呑んで見守る人たちがいました。沖縄・与那国島へ取材に行った政治ジャーナリストの清水克彦さんが、台湾有事の恐怖に揺れる島民たちの生の声をレポート。「漁場はすでに戦時下」という現状を伝えます。

清水克彦(しみず・かつひこ)プロフィール
政治・教育ジャーナリスト/大妻女子大学非常勤講師。愛媛県今治市生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。京都大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得期退学。文化放送入社後、政治・外信記者。アメリカ留学後、キャスター、報道ワイド番組チーフプロデューサーなどを歴任。現在は報道デスク兼解説委員のかたわら執筆、講演活動もこなす。著書はベストセラー『頭のいい子が育つパパの習慣』(PHP文庫)、『台湾有事』『安倍政権の罠』(ともに平凡社新書)、『ラジオ記者、走る』(新潮新書)、『人生、降りた方がことがいっぱいある』(青春出版社)、『40代あなたが今やるべきこと』(中経の文庫)、『ゼレンスキー勇気の言葉100』(ワニブックス)ほか多数。

ウクライナ情勢は泥沼化する

ロシアによるウクライナ侵攻からおよそ3カ月。アメリカ軍関係者や陸上自衛隊の元幹部らを取材すると、「数年単位の長い戦争になる」との声が聞かれる。筆者もほぼ同じ見立てである。

このところアメリカとロシアの防衛相が電話会談するなど、対話の機会も生まれてはいるが、肝心のロシアとウクライナ間での停戦交渉は進まず、このまま泥沼化してしまう可能性は少なくない。

ウクライナ侵攻がこの先も長引く理由とは?

(1)ロシア軍が今よりもウクライナ軍に押され始める

アメリカ政府が4月28日、議会に承認を求めたウクライナへの軍事支援(約204億ドル分)が、6月になるとウクライナ全域に行き渡るため。

(2)ロシア国内で経済制裁の影響が出始める

経済制裁は効き目があるようになるまでに数か月を要する。侵攻開始後に欧米諸国が実施した制裁の影響がじわじわとロシア経済に響いてくるようになる。

(3)国境を接する国々でロシア包囲網が強固になる

フィンランドやスウェーデンのNATOへの加盟が承認されれば、ロシア包囲網が一段と進む。

一方のロシア政府は、国内の不満や不安を抑えるため、隣国モルドバやジョージアに対し、沿ドニエストル共和国、南オセチア共和国といった親ロシア派が支配する地域を中心に揺さぶりをかけ、火種を拡大させてしまう可能性がある。

(4)アメリカはロシアを疲弊させるまでウクライナや周辺国の支援を続ける

ウクライナ支援が最大の目標だったバイデン政権が、ロシアの疲弊、プーチン体制の弱体化に舵を切った。これによりロシアが音を上げるまで戦いが続く可能性が高くなった。

戦時への備えが着々と進む「台湾に一番近い島」与那国

ロシアとウクライナ、中国と台湾、しばしば比較されることが多い関係だが、長引くロシア軍のウクライナ侵攻を見ながら、「ここも第2のウクライナになってしまうのでは?」と危機感を募らせているのが、与那国島(沖縄県与那国町)の住民たちである。

筆者は、沖縄本土復帰50年に合わせ、その与那国島へと飛んだ。

与那国島は、日本の最西端に位置する島だ。人口は約1700人。台湾とは約110キロしか離れていない。天気が良い日には台湾の東岸が目視できる。

台湾軍が中国軍の侵攻に備え大規模な軍事演習を実施すれば、その砲撃音が聞こえてくるという距離にある。

つまり、与那国島は、台湾に一番近い島であり、中国が台湾や尖閣諸島に侵攻した場合は最前線となる島である。

かつては「防衛の空白地帯」と言われた与那国島など八重山諸島に、防衛省が自衛隊の駐屯地など設置し始めたのは2016年のことだ。この年の3月、与那国島に陸上自衛隊の沿岸監視隊が160人規模で駐屯するようになったのである。

島のほぼ中央、イランダ林道と呼ばれる道路からは、陸上自衛隊が設けた巨大レーダーを目の当たりにすることができる。このレーダーで東シナ海の中国船や中国機を監視しているのだ。

それ以降、2019年には宮古島に駐屯地が置かれ、た。石垣島にも今年度中には陸上自衛隊の警備隊、地対艦ミサイル、地対空ミサイル部隊が配備される予定になっている。

また、与那国島には今年4月、航空自衛隊の移動式レーダー部隊が配備され、来年度には陸上自衛隊の電子戦専門部隊も追加配備される予定だ。

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image by : 筆者撮影

普天間飛行場問題などアメリカ軍基地問題で翻弄されてきた沖縄県の50年。それを思えば、「基地」と聞くだけで島民からはさぞかし否定的な声が聞かれるだろうと尋ねてみた。

すると、「いや、自衛隊の基地は充実させてほしいです。やはりウクライナを見て考え方が変わりましたね。よく『基地があるから攻撃される』と言いますよね。私は基地があってもなくても中国軍は攻撃してくると思います」という声が返ってきた。

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