ただ、この2か国のNATO加盟は容易には進みそうにありません。
その前に大きく立ちふさがったのが、あのエルドアン大統領率いるトルコです。
トルコの言い分は「両国がクルド人を匿っていることと、対トルコ制裁を加えている国であることを受けて到底支持できない」ということですが、これはNATOの“全会一致”の原則を逆手に取った戦略と思われます。
対トルコ制裁の撤回とクルド人の引き渡しという、両国にとって許容できない条件を突き付けているのですが、この裏には、ロシア・プーチン大統領に恩を売ろうとしている姿と、戦争初期に調停役を買って出た特別な立ち位置の確保という狙いが透けて見えます。
それに加えてトルコ政府は興味深い指摘を行っています。
それは「ウクライナからの加盟申請は門前払いともいえる冷酷な対応を取ったのに、どうしてフィンランドとスウェーデンには、まさにファーストトラックともいえる手法で、加盟に向けたプロセスを始めるのか?ダブルスタンダードではないのか?」という指摘です。
NATOと、NATOという笠をかぶった欧米の加盟国のダブルスタンダードの適用は、旧ユーゴスラビア紛争時のセルビア共和国への空爆に対する正当化以降、正直嫌気がさしていますが、今回のように対応に差をつけるやり方には、ちょっと違和感を禁じえません。
「人道上の理由」を盾に空爆に踏み切った旧ユーゴスラビアのケースを正当化するのであれば、どうして今回のウクライナへのロシアによる侵攻に対しても“同じ理由”で直接的な介入を行ってこなかったのか?
そしてどうしてウクライナからのNATO加入申請は、門前払いされたのか?
こういった違和感や疑問に答えが見つかるかどうかは分からないが、冷戦終結後にNATOやアメリカによって行われた様々な“介入”の例を見てみてふとよぎる疑問は、ロシアとウクライナの間で進行している戦いが“終わる”頃、ウクライナに対する各国の関心度合いはどうなっているのか、というものです。
同時多発テロ事件以降のアフガニスタンでの20年、そのあと行われたイラク侵攻とサダムフセインの処刑から18年、民主化の鑑とはやし立て、寄って集って利権を掴んだ末に、ポイ捨てされたミャンマー(注:欧米諸国による軍事侵攻ではないが)…。
結果は惨憺たるものであったと思います。
今回のウクライナ戦争では、ロシアによる侵攻を受けて、欧米、NATOは一致団結して、ウクライナ軍に対してロシア軍と戦うための“助け”をし、人道支援と銘打って、ウクライナから逃れてくる人々や、ウクライナ国内に残らざるを得ない方たちを支援していますが、長期化する戦争の後、勝敗が決した途端、各国は実質的に一気に手を退くことになるだろうと思われます。
NATO軍が派遣されて治安維持を行ったり、国連をはじめとする人道支援団体がウクライナ入りして戦後復興を行ったりするでしょうが、その際、それらの戦後復興はin whose ways(誰の利害および手法によるもの)で実施されるのでしょうか?
そして、国際社会、特にウクライナを支援してきた欧米諸国および日本は、本当にウクライナが自走できるまで支援を注ぎ込み、並走することができるのでしょうか?
恐らく誰もしないでしょう。
そのうち「私たちはプーチン大統領とロシアによる蛮行からウクライナを守るために集っただけで、国づくりまで手伝うとは言っていない」といった声が聞こえるようになるかもしれません。
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