「ハートカクテル」に酔いしれて。漫画家・わたせせいぞうが今も“手描き”にこだわるワケ

2022.06.16
by gyouza(まぐまぐ編集部)
 

「シティ・ポップ」ブームと音楽と

──昨今、日本の7、80年代のシティ・ポップという音楽が世界的な流行となっています。わたせ先生もシティ・ポップの特集番組でインタビューにお答えしたり、ポスターでシティ・ポップとコラボするなど、関連企画のお仕事も多いかと思いますが、この世界的なシティ・ポップブームについて思うこと、ご自身が70年代から80年代にかけて印象に残っているレコードなどがありましたら教えてください。

わたせ:当時はさまざまな音楽を聴きながら制作しましたよ。午前中はジャズのインストゥルメンタルやボサ・ノヴァをよく聴いていました。シティ・ポップが流行っていた80年代当時は、常に街の中で音楽が聴こえてくる、僕の絵で言うと「街に音符が流れている」ような時代でしたね。大滝詠一さんや佐野元春さん、山下達郎さん、奥さんの竹内まりやさん、ユーミン(松任谷由実)の音楽なんかがよく流れていて。みんながエネルギーを持っていましたよね、いろいろなものが前へ前へ向いていた時代でした。いまシティ・ポップの再ブームが来たというのは、やはりアナログだからなんでしょうね。

──当時は、録音技術もアナログでしたし、再生するレコードやカセットテープなどのメディアもアナログですから、今の世の中で流れている音楽とはまったく違う音だった記憶があります。

わたせ:今の音楽は、みんなコンピュータの打ち込みでしょう。YMO(イエローマジックオーケストラ)なんか、逆にコンピュータに近づけようと、人間が一生懸命に汗かいてやっていたじゃないですか。途中でデータが飛んでしまったり、演奏中の息づかいとか、ミスタッチとか、あれがいいんですよね。どこか人間らしさ、温かさがありましたから。そういった部分に惹かれるんじゃないでしょうか。

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2021年に発売40周年を迎えた大滝詠一『A LONG VACATION』とコラボしたポスター用イラストの前で。近年、世界的ブームとなっている「シティ・ポップ」関連の仕事も増えている

──それは、わたせ先生の作品に通じるものがありますよね。手描きだからこそ感じる温かみや、人間らしさと言いますか。

わたせ:やっぱり、そういうことは大切ですよね。どんなにデジタルで作られた音楽でも、ライブで歌ったり踊ったりする行為はアナログなんですから。

思い出の「ハートカクテル」が詰まった自選集

──現在刊行中の『わたせせいぞう自選集 ハートカクテル』(小学館クリエイティブ)の新シリーズ、ミュージック&クルーズ「サンライズ」編が好評発売中ですが、掲載作品をセレクトする際に留意している点がありましたら教えて下さい。

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わたせせいぞう自選集 ハートカクテル』ミュージック&クルーズ「サンライズ」編(小学館クリエイティブ)

わたせ:まず、今の服装でもう一度リメイクしたいなと思った作品を選んでいます。あとは「夏休みで新人のアシスタントと2人だけになってしまって、しんどい思いをして描いた」とか(笑)、当時の思い出が蘇ってくるような作品を選びました。

──各巻に両面カラーのポストカードも付いていますし、ファンにとっては嬉しい特典ですね。扉ページには、外車や風景などイラストの元になったような写真が掲載されていますが、こちらは先生ご自身がお撮りになったものでしょうか?

わたせ:そうなんです。昔の「ハートカクテル」にも僕が撮った写真と短い文章を掲載していたので、編集の方と「今回もそれを踏襲しましょう」ということで載せています。

──この扉写真が、わたせ先生の漫画やイラストの世界観を感じさせるステキな演出ですね。初めて読む若い読者の方には、たった4ページの中に映画のような前後のストーリーを想像させるような構成は新鮮なのではないでしょうか。

わたせ:男女の恋愛は普遍的なものですから、ストーリーは今でも通用すると思いますね。最近はスマホやネットによる情報過多で、みんな「頭でっかち」になっているじゃないですか。特に若い世代の方は「自分の頭で考える」もしくは「自分の頭で想像する」という機会が少なくなってきていると思います。ご指摘の通り、「ハートカクテル」はわざと前後のストーリーを曖昧にしているんですよ。この前に何があったのか、その後どうなったのか、自分の頭で各自が想像をふくらませられるようにしているんです。情報を与えられるばっかりじゃなくて、僕の「ハートカクテル」で想像することを楽しんで、左脳を元気づけてほしいですね。

16日より「わたせせいぞう展 〜ハートフルな東京日和〜」開催

──6月16日から28日まで、大丸東京店11階催事場で「わたせせいぞう展 〜ハートフルな東京日和〜」が開催されます。この展示や近況について教えてください。

わたせ:今回の16日から始まる大丸東京店の展示は企画展ではありませんので入場無料なのですが、2年前の2020年に画業45周年記念として大丸京都店で開催された「わたせせいぞうの世界展 ~ハートカクテルだったあの頃~」という企画展があったんです。その時のメイン展示が「暦を巡る冒険~京こよみ~」という、京都の12ヶ月の季節とともに、東のカレと西(京都)のカノジョという遠距離恋愛中の2人の一年をテーマにした12枚の描き下ろしイラストでした。これは京都に住んでいるカノジョのもとに、カレが毎月1回京都へ会いに行ったときの様子をテーマにした連作なんです。今度の大丸東京店の展示では、そのシリーズのお返しとして、今年の1月から制作をスタートさせた、京都からカノジョが東京にいるカレのもとへ会いにくるという「暦を巡る冒険」の新シリーズ「〜東京こよみ〜」の最新作をお披露目します。これは画業50周年記念に向けて完成させる新シリーズなのですが、12枚の連作のうち何点かを今回ご覧いただくことができます。7月には名古屋高島屋で、8月は横浜高島屋でも展示があります。そして「北九州市漫画ミュージアム」の名誉館長を松本零士さんから引き継ぐことになりましたので、名誉館長就任に合わせて10月から門司港にある「わたせせいぞうギャラリー門司港」にて1ヶ月間の企画展を予定しています。

──北九州市は、わたせ先生が幼少期を過ごされた場所ですので、思い入れのある地での展示も楽しみですね。まずは6月16日から始まる大丸東京店「わたせせいぞう展 〜ハートフルな東京日和〜」の展示を楽しみにしております。本日は、お忙しい中いろいろとお話しいただきありがとうございました。


小学生の頃、友人の家で“背伸び”するようにパラパラと読んでいた大人向けの漫画雑誌『モーニング』。その中ほどに掲載されていた眩いばかりのカラー漫画が、わたせせいぞう先生の「ハートカクテル」でした。日本中にアメリカ西海岸の風が吹いていた80年代のカルチャーに対する再評価が高まる中、その中には昨今世界的なブームとなっている日本の音楽「シティ・ポップ」も含まれています。わたせ先生のイラストもシティ・ポップも、デジタル時代の私たちが忘れかけている温かみや人間らしさという「アナログ感」が、その人気の秘密なのかもしれません。この夏、あの頃を思い出しながら、あるいはまったく知らない時代へタイムスリップした気持ちで、わたせせいぞう「ハートカクテル」の世界に酔いしれてみてはいかがでしょうか。(MAG2 NEWS編集部 gyouza)

【関連】今なぜ日本の「シティ・ポップ」が世界的な注目を浴びるようになったのか?

取材協力(敬称略)
株式会社アップルファーム
濱田髙志

【わたせせいぞう 関連情報】

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わたせせいぞう展 〜ハートフルな東京日和〜

会期:2022年6月16日(木)〜28日(火) ※会期中無休
会場:大丸東京店 11階催事場
開場時間:午前10時〜午後8時 ※最終日は午後6時閉場
入場料:無料
サイン会:6月18日(土)・6月25日(土)2回開催
詳しくは大丸東京店HPまたはお電話で(03-3212-8011)

わたせせいぞう「京こよみ −暦を巡る冒険−」複製原画12枚セット

わたせせいぞう氏が展覧会で発表した12枚の連作シリーズ「京こよみ」を、高精細インクジェット技術「JetPress」で複製原画化、12枚セットとして6月16日〜28日開催される大丸東京店「わたせせいぞう展」で先行販売される(その後、順次ネット等での販売開始予定)。作品を入れて飾ることができるアクリルフレーム付セットと、複製原画シートのみの2種類はそれぞれ50セット用意されている。

【価格】
複製原画12枚セット(化粧箱入)シートのみ 55,000円+税(限定:50セット)
複製原画12枚セット(化粧箱入)アクリルフレーム付 75,000円+税(限定:50セット)

【仕様】
・複製原画B4サイズ12枚セットと6枚シートの解説書(A4)、化粧箱入
・アクリルフレーム、金具付(留めネジ+自立スタンド+吊り下げ用金具)/わたせ氏のサイン刻印入り(絵柄の縦横で使い分け可能)

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ハートカクテル ミュージック&クルーズ サンライズ

大好評既刊『わたせせいぞう自選集 ハートカクテル』“四季編”全4巻に続く新シリーズがスタート。

今回は『ミュージック&クルーズ』と題し、 “音楽と車”を主軸とした作品を中心に選んだ傑作を「サンライズ」編、「サンセット」編の全2巻に分けてお届け。

本書「サンライズ」編にはわたせせいぞう自身が厳選した恋の“サンライズ(日の出)”を予感させるときめきの25編を収録。懐かしいあのころの名曲をBGMに、大切な人と都会の海をクルージングする感覚を楽しめる。

既刊の“四季編”と同じく全ページを原稿から新たにスキャンして最新のデジタル技術で着彩、発表当時の色彩が鮮やかに蘇る決定版作品集となっている。

表紙は新たに描き下ろし、著者自身による作品解説や書き下ろしエッセイなどのオリジナルコンテツも充実。

定価:3,520円(税込)
仕様:B5判ハードカバー / オールカラー112ページ
発売日:2022年5月26日(木)
発行:小学館クリエイティブ
購入はコチラ

 

NHK Eテレ「SWITCHインタビュー 達人達

ゲストとインタビュアーを「スイッチ」しながら、30分×2週連続で人生観や哲学を語り合う『SWITCHインタビュー』に亀梨和也×漫画家わたせせいぞうが登場。

放送日:6月13日(月)・6月20日(月)22:50〜23:20
再放送の情報はコチラまで
見逃し配信はコチラから

10代から第一線で活躍、今年デビュー16年目を迎えるKAT-TUNの亀梨和也が会いたいと願った相手は、大ファンだという漫画「ハートカクテル」の作者、わたせせいぞう。わたせの絵を自宅に飾り、毎日寝る前に眺めるほどのファンという。

お楽しみに。

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