上昌広医師が問題視。ワクチン4回目接種の対象から若年層を外す政府の迷走

2022.06.01
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5月25日、全国各地でスタートした新型コロナワクチンの4回目接種。政府は対象者を60歳以上もしくは高重症化リスク者に限定していますが、その設定は理に適っていると言えるのでしょうか。医療ガバナンス研究所理事長の上 昌広先生は今回、若年層を対象外とした決定を強く批判した上で、その理由を医学的観点から解説。さらに厚生省が主張する「対象を拡大しない根拠」について、全く合理性がないと切り捨てています。

プロフィール:上 昌広(かみ まさひろ)
医療ガバナンス研究所理事長。1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

大手マスコミがほとんど報じない、日本政府コロナワクチン4回目接種の迷走

新型コロナウイルス(以下、コロナ)ワクチンの4回目接種が始まった。5月26日、朝日新聞は「4回目接種、始まる 60歳以上、基礎疾患ある人対象 コロナワクチン」と報じている。他紙の報道も、ほぼ同様だ。マスコミは、今回の政府の対応に特に問題意識はないようだ。私は、このことを残念に思う。今回の政府の対応こそ、我が国のコロナ対策の迷走を象徴しているからだ。本稿でご紹介しよう。

私が問題視するのは、接種対象を60歳以上や重症化リスクが高い人に限定したことだ。ワクチンが確保できていないのであれば、そのような対応も止むを得ない。ただ、そうではない。5月17日、後藤茂之厚労大臣は、期限切れとなったワクチンを大量に廃棄する方針を明かした。ワクチンは十分量が確保されているのだ。それなら、接種を希望する全ての国民を対象とするという考えがあってもいい。どちらのほうが、国民の立場に立ったものかは言うまでもない。

実は、最近、先進国のコロナ対応は大きく変わった。そのことを世界に印象づけたのは、米政権医療顧問トップのアンソニー・ファウチ国立アレルギー感染症研究所長の発言だ。4月10日、米ABCの番組「This Week」に出演し、「コロナは根絶できるものではない」、「各人が、自分がどの程度のリスクを負うか考えて行動すべきだ」と発言した。ウィズ・コロナは長く続くから、コロナ対策の強度は個人の判断に委ねざるをえず、政府は一律に決めることはできないという訳だ。この発言は、世界中の様々なメディアで報じられた。

ファウチ氏は、世界を代表する医師・医学者だ。『ネイチャー』、『サイエンス』だけで、過去に40報以上の論文・論考を発表し、1983~2002年まで世界の科学誌にもっとも引用された研究者の一人である。その発言は重い。

この頃、世界の医学界も、自らの誤りを認め始めた。権威ある米『ニューイングランド医学誌』は、4月28日の社説で「失敗を意味する『ブレークスルー』という言葉は、非現実的な期待を生み、このウイルスに対するゼロ・トレランス戦略の採用につながった」と自己批判している。コロナは一回の感染やワクチン接種で免疫がつくわけではなく、何度もワクチンを打ち、感染を繰り返すことで、長い年月をかけて免疫をゆっくりと獲得していくことが明らかとなった。『ニューイングランド医学誌』の社説は「パンデミックからエンデミックに移行するためには、ある時点で、ワクチン接種または自然感染、あるいはその2つの組み合わせでは軽症に対する長期的な予防ができないことを受け入れなければならない」と続けている。

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