「新しい資本主義」はアベノミクスと何が違うのか?見えてこない分配の中身

 

日本の資本主義の父といわれる渋沢栄一は、「一滴一滴が大河になる」という「合本主義」を提唱しました。この一滴とは、金銭的資本の滴だけではなく、人的資本の滴も含まれています。

渋沢栄一が日本に資本主義を導入した理由とは、当時に新しい時代を切り拓く社会変革のためでした。現在の「新しい資本主義」も同じような社会変革の意気込みで、そのためのHOWの実行に期待したいところです。

と考えると、新しい資本主義は、もちろん国内を含む、グローバルな視野でHOWという実行が展開することが極めて重要です。「世界をリードしたい」、来年G7議長国として存在感を示したいと総理は意思表明されています。

そういう意味では、これもまた報道が注目していない個別分野の検討が実行計画の最終案に組み込まれました。

「グローバルヘルス(国際保健)」分野への民間資金の呼び込みに向けて、健康投資・栄養対策等の取組事例の普及や投資インパクトの可視化を行うことです。

グローバルヘルスとは新しい産業の成長戦略でもあり、日本の経済安全保障にも極めて重要な政策です。まさに、世界への「人への投資」であり、「成長と分配の好循環」のグローバル展開です。

グローバル展開がなければ、日本の真の「成長と分配の好循環」が持続的に実現することはあり得ません。

そして、この「インパクト」こそが、今回の新しい資本主義の実行計画の最大な特長であると私は評価しています。

同実行計画案の何か所で登場しますが、今まで日本政府がまとめてきた経済政策に「インパクト」という表現が掲載された事例の認識ありません。

このインパクトとは「経済的・社会的の課題解決を意図としながらも経済的リターンを要する」という考えであります。まさに、渋沢栄一の「論語と算盤」の現代意義です。

そして、インパクトとして不可欠である「意図」を示すのが「測定」になります。

つまり、企業のインパクトを測定し、且つ、目標を設定することによって、新しい資本主義における企業の新しい価値が可視化できるということです。

もし、これが実現すれば、「新しい資本主義とは何か、意味がわからない」という声は、古い時代に留まっていると言わざるを得ません。

□ ■ 付録:「渋沢栄一の『論語と算盤』を今、考える」■ □

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「渋沢栄一訓言集」一言集

一国の推進は人に由る

これからの新しい時代において日本が資本主義をバージョンアップさせる理由は、外部不経済を置き去りにすることのない国になっていくためです。その実行計画が「人的資本」や「人への投資」を重視している理由も、この訓から明らかです。

そして、その「人」とは自国民に限りません。世界の人的資本をも向上させることを視野に、推進するべきです。

「論語講義」顔淵第十二 9

税斂を薄うして民を富ませ、民富めば
すなわち君富むなりというのは、
動かすべからざる金言なり

今回の実行計画案で「資産所得倍増プラン」でNISA(少額投資非課税制度)の抜本的な改革を検討する意向を示しています、税収入が減少することに懸念を示す声も上がるでしょう。

ただ、まさに栄一が指摘している通りです。簡単な制度で全国民が利用して富むことを促す政策は、仮に単年度の帳尻が合わないとしても、長期的には国を富ますことへつながります。

そういう意味で、利用者にとって極めてわかりやすい「つみたてNISA」の恒久化および未成年も利用できることを、実現会議で提案いたしました。

謹白

image by: 首相官邸

渋澤 健(しぶさわ・けん)

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