ウクライナは明日の我が国。世界的歴史学者が日本に発する警告

 

興味深いのは、この動きに中国の習近平国家主席が「最大限の支援」を約束するビデオ演説を送っていたことだ。

アメリカの裏庭で起きた影響力の低下には中南米諸国での左派政権の台頭に加え、アメリカの介入に対する積年の反発。そして大国間の争いの都合から距離を置き、経済発展を実現したいという地域の思惑があったと考えられるが、最後の思惑(経済発展したい)については、中国との結びつきが大きく、ここに習主席のCELAC設立へのビデオ演説がつながるのである。

興味深いのはロイター通信の記事「中国、中南米貿易の大半で米国凌駕 バイデン政権でも差拡大」(2022年6月9日)だ。

ロイターの調べによるとアメリカと自由貿易協定(FTA)を結んでいるメキシコを除くと、他の中南米諸国の中国との貿易額はすでに対アメリカの貿易を上回っている。

「中国との貿易増加が目覚ましいのは南米のアルゼンチンやチリ、ペルーだが、ブラジルでもそうした動きが見られた。南米の資源国などから中国が大豆やトウモロコシ、銅などを大量に輸入する一方、中南米で中国製品の市場シェアが拡大している」という。

こうした傾向は対ASEANにおいてはさらに顕著だった。前述したようにIPEFでアメリカのためにASEANを取り込もうと動いた日本に、同諸国が冷淡であったのは警戒心からなのだろう。

マレーシアのマハティール元首相は、「われわれに必要なのは経済発展であり、それに必要なのは安定であり対立ではない」とはっきり述べた。

実は、ASEAN諸国の立ち位置は日本が考えるほど日米寄りではない。

日本の外務省が5月25日に公表した「2021年度の海外対日世論調査」(対象はASEAN諸国)によれば、「今後重要なパートナーとなる国は?」との設問に対し、「中国」と答えた人の割合は48%と最も多く、日本は2位の43%だった。中国が日本を上回るのは2007年度以来で、前回調査(2019年度)では日本が51%で中国は48%だった。

外務省は、日中逆転の理由を「中国は広域経済圏構想『一帯一路』を掲げ、インフラ支援にも力を入れている。経済的な結びつきが強まっている」と分析している。つまり「一帯一路」が効いたということだ。

日本では「債務の罠」という批判とともに「一帯一路」は中国の対アジア戦略の失敗の象徴のよう扱われることが多いが、実態は少し違うということだ。問題をクローズアップする一方で、分母を無視すると全体が見えなくなる典型といえよう。

日本が注意しなければならないのは、あらかじめ対立を前提とし、さらに好悪を明確して報じることで起きる情勢認識のこうした差は、ロシア・ウクライナ戦争をめぐる報道にも反映されているという点だ。

事実、今回アメリカの影響力の低下が目立った中南米とASEANの反応は、ほぼそのまま対ロ制裁に消極的な態度を示した国の態度とも重ってくる。彼らには「制裁に参加しない」ことがイコール「非常識」「不見識」との日本の見方は通じないのだ。

6月7日に『ニューズウィーク日本版』が報じた記事「ウクライナ情勢を受け欧州ではアメリカ支持率がうなぎ上り、ではアジアは?」は、このコントラストを見事に反映した内容となっている。

記事で紹介されたのは、「ロシアによるウクライナ侵攻後の3月末から5月初旬に世界53カ国・地域で行われた年次調査「民主主義認識指数(DPI)」である。世界の民主主義に対するアメリカの影響を好意的に捉えるか否かで、結果、ヨーロッパ全体では昨年より10ポイントも上がったと伝えている。とくにポーランドやウクライナ、ポルトガルでは順に32ポイント、25ポイント、19ポイントと大幅に上昇したようだ。

しかし一方、ロシアとの付き合い方について一枚岩ではないアジアでは、アメリカの影響を好意的に見る回答は少なく、「昨年より10ポイント下落した」というのだ。

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