主権国家への軍事侵攻というロシアの蛮行に対して、経済制裁を含めた対抗措置を取るのは当然の行いであるとする思想。しかしこのような考え方はあくまで「西側先進国的」ともいうべきもので、そうした動きに消極的かつアメリカに対して懐疑的な国々も少なくないのが現状です。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、著者で多くの中国関連書籍を執筆している拓殖大学教授の富坂聰さんが、ここ一月ほどの間に東南アジアや中南米で明らかになった、アメリカの影響力低下を如実に表す出来事を紹介。さらに我が国の今後の国際社会での立ち位置について、世界的歴史学者のインタビュー記事を引きつつ考察しています。
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アメリカの影響力は低下したのか 中南米・ASEAN諸国が日本を警戒する理由
対中包囲網の構築を目的にバイデン政権が積極的に動いたこの2週間余り、アメリカはかえってその限界に直面したようだ。
アメリカ外交の狙いは気心の知れた仲間(主に西側先進国)から、さらに広い世界に「アメリカ側」か「それ以外か」を問いかけ、立場を鮮明させることだった。当然、「それ以外」からの引き剥がしが目的だった。
ターゲットは東南アジアと中南米だ。具体的には前者がインド太平洋経済枠組み(IPEF=5月23日)であり、後者が米州首脳会議(6月8日~10日)である。
本メルマガでもすでに触れたようにIPEFの立ち上げは成功を宣言できるような雰囲気ではなかった。対中包囲網どころか、むしろアメリカの意を受けて動き回る日本に対し“苦言”を呈するASEANの重鎮たちの態度が目立ったのである。
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この流れは月が替わった6月にも引き継がれた。米州首脳会議である。ここではバイデン政権の焦りからなのか、オウンゴールとも思える失策もあった。事前に、「独裁者は招かない」として、反米左派のキューバ、ベネズエラ、ニカラグアの排除を決めたのだ。
名指しされたキューバ、ベネズエラ、ニカラグアは当然のこと強く反発。キューバのミゲル・ディアスカネル国家主席は「新植民地主義」とこれを批判。ニカラグアに至ってはロシアの軍隊の入境(人道支援などの条件下で)を認める動きさえ見せた。
3カ国の排除に反応したのは当事者だけではなかった。中南米・カリブ海諸国(以下、中南米)全35カ国の8カ国の首脳が会議をボイコットするという異例の事態へと発展してしまったのだ。
中南米では近年、左派政権が次々に生まれていたという背景から説明もされたが十分とは言えない。明らかにアメリカの横暴に対する反発もあったからだ。
そのことが分るのは会議期間中の討論である。バイデン大統領の、「民主主義国家が協働した時に発揮できる力を見せよう」との呼びかけに対し、アルゼンチンのアルベルト・フェルナンデス大統領は、「ホスト国に参加国を選ぶ権利があるわけではない。多様性こそ民主主義を育む」と逆にアメリカを批判した。
なかでもバイデン政権に痛手だったのは、メキシコのロペスオブラドール大統領の欠席だった。今回の会議では移民問題が大きなテーマであり、メキシコはアメリカとの貿易が堅調なだけにメキシコの選択にはメディアの興味が集まった。
ロペスオブラドール大統領は「われわれは覇権主義に対して沈黙を守っているべきではない」、「排除政策が南米に入り込む動きを放棄すべき新たな段階に入った」とまで語ったのである。
ロペスオブラドール大統領はかねてから米州首脳会議の裏にある米州機構(OAS)に「米国が中南米に介入する道具」との疑念を抱いてきた。中南米諸国は2011年、OASに対抗する形でラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(CELAC)を設立。ロペスオブラドール大統領はCELACは欧州連合(EU)のような共同経済体を目指すべきだ」と宣言していた。
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