NATO出席にトヨタ電撃訪問。岸田首相“異例日程”が炙り出す選挙戦術

 

NATO首脳会議への出席に対しては、中露との関係で危機がエスカレートする恐れを指摘する声もあるが、岸田首相は米欧との協力強化をアピールするほうが得策と判断したに違いない。

岸田首相をめぐる“異例”は、外交面だけではない。近くトヨタ自動車本社を訪問するという。どうやら現職の総理としては初めてのことらしい。このような場合、岸田首相と秘書官だけで決めるのではなく、自民党選対本部との連携、調整が必須だ。そこには必ず電通がからんでくる。

電通が自民党の選挙広報をほぼ独占してきたことはよく知られている。2000年から18年までに自民党から電通とグループ会社に宣伝広報の名目で支出された額は111.8億円にのぼり、国政選挙のあった年は、なかった年に比べ2倍近いカネが支払われている。

選挙対策の総合的なプランづくりはもちろん、政見放送、ポスター作成から、対談記事、テレビ出演などのメディア戦略、さらには情勢分析にいたるまで一手に引き受ける巨大便利屋企業。それが電通だ。

しかも電通は自民党への政治献金を取りまとめる「国民政治協会」に対し、安倍晋三政権が発足した12年から18年までの7年間で計3,600万円を献金している。もはや“腐れ縁”というほかない関係だ。

電通は、トヨタとも深いつながりがある。最大の広告主というだけではない。トヨタは昨年1月、ソーシャルメディアに対応するため電通と資本業務提携をむすび、両社が出資する持株会社と事業会社を発足させているのだ。

当初、「分配」や「所得倍増」を掲げていた岸田首相は今春闘で経済界に3%の賃上げを呼びかけた。それにいち早く応えたのがトヨタの豊田章男社長だった。

2月23日に行われた第1回目の労使交渉で豊田社長は満額回答を示し、さっそく、その翌日に官邸に出向いて、岸田首相に報告した。

このパフォーマンスに、横並びを好む日本の他の大手企業が影響されたのは言うまでもない。その後、雪崩を打って満額回答が相次いだ。

岸田首相が豊田社長の心意気に打たれ、返礼の意味でトヨタ本社を訪れる。これまで現職の総理がそんなことをした前例はないが、不自然とも思えない。しかし、なぜ参院選を控えたこんな時期にするのかという疑問が湧く。

おそらく舞台裏で、電通が動いていたのではないかと筆者は想像している。トヨタ訪問によって、あらためて岸田首相が大手各社の賃上げに果たした功績がクローズアップされ、参院選にプラスに働くという算段があるに違いない。約32万6,000人の組合員で構成される全トヨタ労働組合連合会はもちろん、連合、自動車業界、さらには財界にいたる波及効果も期待しているのではないだろうか。

全トヨタ労連は50年以上、野党系の推薦候補を国会に送り込んできたが、昨年行われた総選挙では擁立せず、結果として自民党に議席を明け渡した。この動きの背後に、豊田氏の意向があるのは容易に推測できる。エンジンから電動化への変革の波が押し寄せる自動車業界にあって、自民党との協力体制は欠かせない。

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