米国と中国の対立に利用されるだけの台湾・日本は「明日のウクライナ」か?

 

不協和音はG7内からも聞こえてきた。フランスのエマニュエル・マクロン大統領がジョー・バイデン大統領を呼び止めて「石油の増産には……」と深刻な表情で話しかけると、そばにいたジェイク・サリバン大統領補佐官が慌てて遮り、「メディアが撮っている。話は中で」と促した場面にも注目が集まった。

支援に最も積極的なイギリスのボリス・ジョンソン首相とは対照的にドイツもイタリアも慎重だった。「ウクライナ疲れ」といった言葉が象徴するように、これまで対ロ強硬発言が目立ったウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長もウラジミール・プーチン大統領のG20からの排除を望まないと発言した。

対ロ強硬派のジョンソン首相にしても内政では針の筵のようだ。内政での不利を覆すためにウクライナ問題でアクセルを踏むと指摘するメディアは多く、G7の会見ではBBSの記者から「帰国したくないのでは」と突っ込まれる場面も見られた。

NATO首脳会合では、せっかく参加した韓国の尹錫悦(ユン ソンニョル)大統領が国内で散々に酷評され話題となった。バイデン大統領がそっぽを向いたまま尹の手を握ったことに始まり、日米韓首脳会談に費やされた時間がわずかに25分だったこと。また日韓首脳会談に至ってはたった4分という短さだったことが批判を受けた。しかもNATOホームページに掲載された写真は、大統領だけが目をつむっている写真で、続く夫人のケースでも顔が半分隠れた写真がアップされたのだ。こうした冷たい扱いに対しネットで怨嗟の声があふれたのだ。

NATOからすれば、日本や韓国が加わったところで「心強い」はずはないのだから当然だろう。本音を言えば、アジアの紛争に巻き込まれるつもりなど毛頭ないだろうし、巻き込まれるほど愚かでもない。

そもそも主要敵であるロシアが、警戒していたウクライナに手を出したのに対し、ドイツやイギリス、フランスからの支援でさえこれほど緩慢であるのに、どうやってアジアの問題に関わるのか。冷淡なのは当然だろう。

一方、それでも中国はいよいよアメリカの動きが一線を越えたと感じ取ったようだ。

新冷戦を否定しながらも、やはり仲間を増やす必要性を痛感したようなのだ。当面、その中心となるのはBRICSとRCEP(包括的経済連携)、そして「一帯一路」だろう。政治的には「非対立」で大国同士の対立とは距離を置きながら、経済発展という共通項で緩やかに結びついてゆこうという流れだ。

米中対立の真っただ中にいる中国が「大国同士の対立とは距離を置く」といっても分かりにくいが、要するに中国はアメリカと関係を切れとは言わないのだ。発展の機会を放棄してまで米中対立のどちらかに加担するのは嫌だという国には圧倒的に魅力的だ。

G7に先立ち中国外交部の趙立堅報道官はBRICSとG7の人口を比較し「32億人vs.7億7,000万人」と発信した。

かつてG7は世界のGDPの7割を占めていたが、いま(2018年)は45.3%に下がり、下落傾向は続いている。中国は伸び盛りの新興国・発展途上国と共に歩み、先進国とは対立しない程度に付き合えればいいと発想を切り替え始めている。

アメリカがEU・日米豪を味方につけて中国を包囲したとしても、屈服させるのはもはや現実的ではない。

国際分業・生産ネットワークの構築が急速に進んだ世界の対外直接投資残高は、1990年と比べて約14倍にまで拡大(2018年時点で)した。また世界のGDPに対する貿易の比率も2019年には45.2%と膨らんでいる。これをけん引してきたのは中国である。

この段階で突然ネットワークを組み替えろと言われても簡単ではない。コロナ禍の初期、日本の薬局の商品棚からマスクと消毒薬が消えただけで消費者がどれほどパニックに陥ったかを思い出すまでもない話だ。

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