こうしたなか中国が打ち出す「対立ではなく発展」には一定の神通力がある。コロナ禍の上にインフレのダメージに苦しむ世界ならばなおのことだ。
だが、もしアメリカが自国に不利な流れを一気に挽回しようとすれば、方法はある。中国に台湾への武力行使を決断させることだ。そのためには徹底的に挑発し続けることだが、そこで利用されるのは台湾内部の独立派と日本である。日本人はそろそろその立場を自覚しなければならない。そのとき戦場になるのはアメリカではなく台湾と日本だということを。この戦いは、最後にどちらが優勢で終わろうと日本だけは無事ではすまない。
岸田首相がNATOに呼ばれ舞い上がって──といってもどの映像や写真を見てもどこかの首脳と楽しげに話し込む姿などなかったのだが──帰国した直後、ロシアは日本企業が絡む天然ガスプロジェクト「サハリン2」で驚きの大統領令を発した。事業主体をロシア企業に変更するというのだ。このニュースはこれまで一方的に制裁する側であった日本が、守勢に回ったことを示す象徴的な意味を持つような気がしてならない。
中国も同時に動いた。長年米中貿易摩擦の緩衝材となってきたボーイング機の爆買いから手を引き、エアバスに切り替えたのだ。これほど思い切ったことをするのであれば、早晩日本にもアクションがあるだろう。
アメリカの手先にしか見えない日本の動きには、東南アジアの国からも苦言が飛んでいた。シンガポールのリー・シェンロン首相からは「歴史問題を見直せ」という批判が。マレーシアのマハティール元首相からは「ASEANに対立はいらない」という苦言だ。これが世界から見えている日本の姿だ。
日本はいま、「あの時にブレーキをかけておくべきだった」という歴史のポイントに立っているように思えてならない。
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2022年7月3日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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