取り残される日本と欧州。米国より「ロシアと組む」ことを選んだ世界

 

中東の国際政治の世界では、これまで米国が圧倒的な影響力を持ってきた。米国の意向がすべてを決めてきた。それだけに、イスラエルもサウジもエジプトもトルコもイランも、近年の米国の覇権衰退と多極化の傾向を敏感に察知し、米国覇権衰退後の中東でどのように自国が生き延びていくかを考えてきた。そのうえで、サウジやエジプトやトルコやイランは米覇権を見限って非米側に入ることを決め、BRICSに加盟申請している。イスラエルだけは、米国に頼んでサウジを味方につけてイランと敵対する道を選んでいるように見えるが、これとて、イラン敵視を方便として使ってまずサウジなどアラブ諸国と和解協調していき、いずれ米覇権がもっと衰退してイランと和解せざるを得なくなったら、アラブ諸国と結束してイランと交渉し、イスラエルだけが孤立する事態を避けるという2段階作戦と考えれば、多極化対応策として納得できる。イスラエルは、ウクライナ開戦後もロシアとの良い関係を維持している。これも多極化対応だ。

As NATO Grows, China and Russia Seek to Bring Iran, Saudi Arabia Into Fold
Argentina is looking forward to BRICS membership

イランは米イスラエルに敵視されるほど、露中と結束して強くなる。イランが米国に敵視されて強くなったので、サウジはイランを敵視し切れなくなり、非公式に和解する道を選んでいる。サウジは、米国の謀略によって2015年にイエメンのフーシ派との戦争に突入させられ、7年間も戦争の泥沼にはめられた。イエメン戦争は今年、シーア派イスラム勢力であるフーシ派に影響力を持つイランが裏でサウジのために動き、停戦が実現している。サウジにとって、米国は戦争の泥沼に陥らせる悪い同盟国である半面、イランは泥沼の戦争を停戦させてくれた良いライバルである。サウジが米国と切りたくなり、イランと和解したり非米側に転向したくなるのは当然だ。米国では、左翼リベラルやマスコミが「バイデンは、イエメンで人殺しを続けるサウジを訪問すべきでない」などと言っている。米国自身がサウジをイエメン戦争に陥らせたことが、意図的に無視されている。

米国に相談せずイエメンを空爆したサウジ
Yemen ceasefire extended after today’s expiration

米左翼やマスコミは、サウジ当局が2018年に反体制派ジャーナリストのジャマル・カショギを殺したことも非難して「バイデンは、カショギを殺したサウジのMbS皇太子に会うべきでない」と言っている。サウジ当局がMbSの了承にもとにカショギを殺したのは事実だろうが、カショギは米マスコミに記事を書いていた人であり、サウジ当局は殺害の前に米諜報界に打診して了承を得ていたはずだ。米諜報界がMbSを陥れるために、サウジ当局を誘導してカショギを殺させた疑いすらある。しかし、米国人(とその傀儡)たちはそんなことを意図的に無視して、MbSのサウジを極悪な存在に仕立てている。サウジが米国から離反するのは当然だ。米国が、サウジを離反へと誘導してきた(米国のリベラル左翼は近年、隠れ多極主義に入り込まれている)。

サウジを対米自立させるカショギ殺害事件
サウジを敵視していく米国

カショギはトルコで殺された。当時はトルコとサウジの仲が悪く、カショギ殺害の裁判がトルコで進められた(サウジはカタールやムスリム同胞団を敵視しており、親同胞団なトルコが喧嘩を買ってサウジを敵視した)。だがその後、サウジが非米側に寄っていくとともにトルコと和解し、カショギの裁判は今年4月、トルコからサウジに移管された。サウジ当局の傘下にあるサウジの裁判所は、カショギ殺害の裁判をうやむやにしてしまい、カショギ殺害の話はトルコの外交戦略として葬り去られた。

Turkey transfers Khashoggi murder trial to Saudi Arabia in move that likely ends case
カタールを制裁する馬鹿なサウジ

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