あまりに大きすぎる犠牲。台湾問題は解決しないことが正当な理由

 

では、具体的に台湾侵攻を計画するとして、中国にはどんな作戦があるのでしょうか?以降は全くの机上の空論ですが、思考実験として、議論のたたき台として提示してみたいとも思います。

1つは中国が作ったばかりの空母打撃群を展開して、米国の空母打撃群と睨み合うという作戦です。この作戦は、非常に難しいと思われます。仮に暴発が起きて、どちらかの防御が破られて、空母を喪失するとその国には取り返しのつかないダメージが生じるからです。

航空母艦というのは、まず非常に高価です。アメリカの場合は空母の調達コストは130億ドル(1兆5,000億円)以上と言われています。また1艦で5,000名弱の要員が乗船しています。厳重な装甲に守られているとはいえ、心臓部には動力源である原子炉を稼働させています。

仮にそうした原子力空母を喪失することになれば、基本的にはその政権は持たないと考えられます。したがって、現代の空母というのは実際に運用して決戦に使用する武器ではなく、あくまで抑止力なのです。ですから、どう考えても米中の空母打撃群が直接睨み合う状況というのは、スチルメイトになり、勝負は引き分けでアプトプットは現状維持になります。従って、現状変更というアウトプットを期待する場合には、作戦として難しいと思います。

2つ目は、金門と馬祖という台湾が実効支配している島の争奪戦です。福建省の沿岸部に台湾はこうした小島を確保しており、過去には軍事戦闘の舞台にもなってきました。中国はここを攻めて、台北にプレッシャーをかけるという作戦を取ることはできます。

ですが、現在、福建省には極めて平和な世界が現出しており、金門と馬祖には中国の人々は往来自由ですし、中国の携帯シグナルが届いてしまったり、社会的には一体化しています。いきなりここで、軍事的な緊張を現出させるというのは、豊かな福建省の現場が許さない感じもあります。

また北京が毅然として金門と馬祖の「回復」を決意して、福建省の周辺住民を立ち退かせたとして、時間がかかりますから奇襲は無理で、交渉が先になると思います。そこで時間がかかる中では、日米も相当な決意をするはずで、そうなると結局は睨み合いで終わる可能性が高いと思います。

3つ目は、直接台湾本島に奇襲をかけるという方法です。しかし、人口密度の高い台湾に対して、意味のある奇襲攻撃を行えば、自動的に民間人犠牲が発生します。その場合に、ロシアのように「軍事拠点だった」などの抗弁で乗り切ることは難しいでしょう。また、漢民族というのは歴史の審判というのを非常に気にします。余りにも乱暴な方法論は、国内の動揺を招く危険もあります。可能性としては限りなくゼロに近いと思います。

4つ目は、最近よく言われていることですが、東側の在沖米軍を攻撃して、戦意喪失させておいて、台湾を孤立させるという作戦です。しかし、これも、アメリカ人の気質と米軍のカルチャーと歴史に照らして、仮に在沖米軍が奇襲された場合には、アメリカは全軍と全国世論が瞬間的にカッカしますから、大統領の下に結束して非常に厳しい対応を取ってくるに違いありません。

政府、党、民間のいずれにも知米派の多い中国がそのような、まるで大日本帝国の参謀本部のようなチョンボをするはずはありません。

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