5番目ですが、そこで警戒しなくてはならないのが、細かな作戦を積み上げるという方式です。具体的には次のような戦術を重ねるという方法です。
- 尖閣を奇襲して、米軍が動くかを確認する。米軍は、実際に尖閣を取られた場合には「たかが岩のために兵士の生命を危険に晒したくない」などという躊躇を見せる可能性があり、最悪の場合には1発で日米離反が可能になる。米国が動くにしても時間がかかるので、その間に日本の政界は大混乱に陥る。
- 日米が尖閣問題でモタモタしている間に、台湾との交流停止、経済断交、経済制裁、親台湾国への恫喝などを積み上げる。
- 台湾には純粋な一国二制度などの甘い誘いを繰り出して、飴と鞭を使い分ける。その上で、台湾の世論を恐怖心から動揺させる。
- 最終的には台湾の選挙で、親中国派に実権を握らせて、段階的に統合を進める。
全くのフィクションであり、思考実験に過ぎませんが、尖閣という無人島をうまく利用して、日米離反を企図するということは、将棋の序盤戦として十分に警戒する必要があるように思います。
このバリエーションとしては、例えば「台湾系の民族運動家」を偽装した人物に尖閣を乗っ取らせて、そこで日本の海上保安庁と大きなトラブルに発展させるというシナリオが考えられます。その上で、「台湾人を救う」ために中国の海警が動く中で、台湾の世論を親中に引き寄せるなどといった手法もシミュレートしているかもしれません。上手くすると、尖閣と台湾が1発で中南海の元に転がり込んできるわけで、警戒が必要です。
とにかく、先ほど申し上げたように、中華圏では「日本軍国主義は悪玉」というのが「中華の大義」になっています。そうなると、仮に紛争や睨み合いに日本が登場して、しかも最前線に出てくると、相手方は思い切り士気が上がってしまうし、軍備増強について世論も支持してくるという計算式が成立してしまいます。
そんな中で、米国が日本に対して「軍事費の増額」だとか「敵基地攻撃能力」などを要求して、しかも岸田政権がホイホイこれに乗せられているというのは、危険極まりません。
思考実験は以上にしておきますが、そんな中での今回のペロシ訪台というのは、非常に興味深いタイミングと思います。なぜならば、中国共産党は、ちょうど北戴河での個別会議の真っ最中であり、そこを刺激することになるからです。にもかかわらず、こうした話が出ているというのは、基本的には根回しができている、私はそう見ています。
仮に4日にペロシが台湾に入国したら、そして仮に蔡英文総統と会談したとしたら、勿論、中国は激怒するでしょう。ですが、それは米中で根回しが出来ているということの証明になると思います。出来ていなければ行かないでしょう。
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