あまりに大きすぎる犠牲。台湾問題は解決しないことが正当な理由

 

北京の共産党からすれば、常識的には「内戦を戦って台湾に逃げた」蒋介石が敵であり、その蒋介石が右派のファシストとして弾圧している貧しい台湾土着の内省人は被害者ですから「善玉」であり、救済の対象であっていいはずです。もっと単純化して言えば、「敵の敵」ですから味方にしていいのです。

ところが90年代に民主化を実現して公選による民主政体を運用し始めた台湾に対して、北京はこう考えたのでした。「蒋介石の国民党は戦った相手であるが、本土の統一を考える、つまり台湾と本土は一体だと考えているから自分達と同じだ」というのです。これに対して「台湾の内省人は台湾を本土から分離して独立しよう」と考えているのだから敵だとしたのでした。

政治ですから、マキャベリズムもあるのは分かります。ですが、この中南海の発想法というのは、ロジックとしても感覚としても、どうしても理解が難しいわけです。これが「パラドックスの1番目」です。

2番目は、日本の位置付けです。中華圏においては、1945年まで続いた戦争の結果として、日本の軍国主義は究極の敵だという認識が確立しています。勿論、周恩来が述べたように「敵は日本の軍国主義であって日本人民ではない」というのが、同時に中国共産党のタテマエでもあるわけですが、いずれにしても、日本とその軍国主義というのは中華圏では「悪玉」です。

勿論、冷静に歴史を検証するのであれば、日本の無目的な大陸侵攻があったからこそ、これを使って共産党の八路軍は全国的な信用と覇権を確立することができたのです。ただ、それを言ってしまうと日本としては負け犬の遠吠えになるので、そうした理解をしても何の得にもなりません。

それはともかく、この「日本軍国主義は悪玉」という「中華の大義」について、台湾は明らかな温度差があるわけです。それは、後藤新平などによる台湾での行政が機能した、具体的には治療アプローチでの麻薬撲滅、少数民族の保護、ダムや鉄道、郵便などの社会インフラの提供など、占領行政が成功したことが挙げられます。勿論、初期には抵抗もあり、犠牲者も出しているのですが、例えば韓国の統治に比較すると、台湾統治というのは上手く行ったのは事実のようです。

更に、前述したように、日本の後にやってきた蒋介石の暴政というのが非常にイメージが悪かったために、日本支配時代の記憶が美化されたということがあります。もっと言えば、近年の北京からのプレッシャー、特に香港の措置などを含めた恫喝を考えると、益々持って「日帝の50年」が美化まではいかなくても、そんなに悪くなかったという印象になり、現在も過去も混ざり合った格好での「親日」ということになっているようです。

この問題は、平時であれば問題にはなりませんが、台湾海峡の緊張があるレベルを超えていくと、政治的・軍事的に大きな問題になる可能性があります。具体的には、日台が一体化して動くようだと、そのことが均衡による平和ではなく、中華の大義による攻撃の正当化になる訳で、その辺の「コスパ」に関しては日本にはかなり分の悪いストーリーが成立します。

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